急拵えのパートナー

5/5
前へ
/109ページ
次へ
 アルカードは悔やみつつ、信じがたい言葉も口にした。 「吸血は百五十年していなかったからのう……力が衰えたジジイには何も出来んかった」 「えっ、百五十年も血吸ってなかったのか!?」  衝撃度の高いまさかの発言にぎょっとする。  一方で、アルカードはどうって事なさそうに平然としていた。 「そうじゃ。人間として死にたかったと言ったじゃろ。その為に血は絶っておったが……この状況ではそうも言っておられん。儂にも責任があるからのう」  百五十年もの間、血を主食とする吸血鬼が吸血衝動に耐えるとは、信じられなかった。  想像は出来ないが、苦行にも思える。  それを容易にやってのけたアルカードにも彼なりの事情がありそうだが、話を聞く暇はない。  自分の話を長くするつもりはなさそうで、アルカードも早々に話を切り上げた。 「それより、早く一階に降りるぞ。下の様子も気になる」  言う通りにしようと思った。  が、視界に入った肌色で、バージルの緊迫感は薄れてきた。  気まずそうに顔を赤らめ、アルカードから目を逸らす。 「……その前にジジイ、服どうにかなんねぇのか」 「む?」  深刻な話をしていても、裸体がちら付けば集中が途切れるし、場も締まらない。 「仕方なかろう……ジジイの時の服は窮屈じゃ。倉庫にでも合うサイズがあれば良いが……」  アルカードはまたクロスを調達し、その場しのぎでそれを腰に巻いた。  常人離れした美しい美貌によって、その姿は神々しく見える。  けれど、バージルはこの男があのジジイだとは未だに信じられず。しばらくは疑いの眼差しで凝視していた。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加