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「何止まっ……て……」
アルカードの後ろから、覗き込む様に下を見た。
階段の隣にちょうどシェルターがあり、扉が開いているのは確認出来た。
そこから下方へ視線を落としていくと、扉の隙間から上半身だけ出して倒れている者が居た。
「マルテルっ!?」
アルカードの背中から飛び出し、うつ伏せで倒れる彼へ駆け寄る。
見ると、元々白かった彼の肌には血の気がなかった。
首筋には、上に居た二人と同様の紅い点。流れていた血はすっかり乾いていた。
「なっ、なんでこんなっ……!」
自分や相棒に優しさを見せてくれた相手。
そんな彼の無惨な姿にバージルはショックを隠せず、へたり込んで瞳を潤ませた。
静かに側へ寄って跪いたアルカードは、冷たくなったマルテルの首筋に指を這わせていた。
声は落ち着いているが、表情は険しい。
「無事で居て欲しかったんじゃが……血の乾き具合からすると、さっきの二人より前に死んでおる」
「それじゃあ、さっきの中級が……」
犯人を突き止めたとすぐに思い、もうこの世に居ない吸血鬼を睨む。けれど、目の前の相手は首を横に振った。
「いや。あの吸血鬼に殺された二人にはいくつも斬られた傷があった。弄びながら殺した後に血を少量吸われていたが、マルテルの場合は傷一つない。しかし、血は全て吸われている。別人の仕業じゃ」
「じゃあ、他の吸血鬼が侵入してきてマルテルを殺したって事か」
次から次へと起こる事態に、増える被害者。
心や頭の中が、負の感情でいっぱいになった。
「くそっ!」
床に拳を叩き付け、本人に伝えられなかった想いを溢れさせた。
「俺がスコーン食う直前に会ったのはマルテルだけだった。俺の事心配してくれてたし、励ましてもくれて。話が聞ければ何かわかるとも思ってたけど……こんな優しい奴が死ぬなんてっ……許せねぇっ」
アルカードと行動を共にしていても、吸血鬼に対する憎悪はバージルの中で増すばかり。
すると、アルカードはマルテルに顔を寄せ、首筋に残っていたわずかな血を舐めた。
マルテルの命を奪ったとされる同等の行為に、バージルは激昂した。
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