30人が本棚に入れています
本棚に追加
倉庫にあった棚から木箱を取り出すと、バージルはそれを地面に置いて中を漁った。
中には新品の白いシーツが入っていて、死者に被せるには若干粗末ではあるが他に物がない。
マルテルに対して申し訳なさはあったが、シーツを手にしたバージルは妥協する事にした。
「布はこれで我慢してもらうしかねぇか。服は、まぁ仕方ねぇよな」
視線の先には古びた机。その上に、さっき見付けたアルカード用の服を置いていた。
純血種の吸血鬼に着せるには、あまりにも不謹慎。だが、これからの戦闘等も考えれば、他に動きやすい服はなかった。
それ等を持って廊下に出ると、アルカードは既にシェルターから出てきていた。
倉庫に背を向けて跪き、マルテルの頭を撫でている様子で。
表情はわからない状態だったが、悲しんでいるのは伝わる。
姿が別人みたいで、しかも元は吸血鬼。それでも、さっきの出来事や今の仕草で憎めなくなってきている。
だからか、相手を気遣うみたいに自然と話し掛けていた。
「もう戻ってたのか、シェルターはどうだったんだ?」
「何もなかった……」
こちらを振り返りもせず、アルカードの声には覇気もない。
シェルターの中はそんなに広くもないし、最初から異常が見付かるとも思えなかった。
仕事仲間が亡くなった事がよっぽど堪えたんだと感じ、深く追及する必要もないと判断。
だから倉庫の様子と自分の推測を話し、会話を繋げた。
「そうか、倉庫にも何もなかった。となると……マルテルはシェルターから出ようとした時にたまたま襲われたって事か」
アルカードは立ち上がり、そのままマルテルを見下ろしていた。
横顔は確認出来たが、上の空に思える。
「一応、浴室や食料庫も調べてはみたが誰も居らん。マルテルの血を吸った者は、すぐに屋敷から出たんじゃろう……」
その発言で目的が定まり、バージルは静かに心を燃やした。
「じゃあすぐに外を探すぞ。ぜってぇ逃がさねぇ……」
すぐにでも捜索に行きたいが、頼まれていた事を思い出した。
「あ、その前にこれ。ジジイの服とマルテルに被せるシーツな」
「あぁ、助か……」
やっと顔を合わせられたと思ったら、服を見た途端、アルカードは顔をしかめた。
最初のコメントを投稿しよう!