K氏の百点満点の死

2/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 とはいえ、一部の金持ちには「死」が許された。まず大金持ちの場合であれば、大金を支払うことによって安楽死が許されたのである。法外な大金を支払う以外条件はなく、彼らは気が向いたときにいつでも死ぬことができた。それから、ある程度財力を持つ人間も「死」が許された。  K氏は後者の、ある程度の財力を持つ人間だった。大金持ちでなくとも、労働からの解放として死を得ることができる。ただし、大金持ちの場合と違って条件があった。  それが『幸福な死』である。K氏はまず、国へ「死」の許可を申請した。それと大金を持ってここ『幸福な死』株式会社の施設へ来たのだが、ここで百点満点の死を得られなくては、国から最終的な「死」を許可されないのである。  死に方そのものについては簡単だ、ヘッドギアを装着し、完璧な死を体験する。このことにより脳は本当に死んだと感じ、実際に挑戦者はそこで一度死ぬのである。  ただし『死への満足度』が計測されている。これが百点満点でないのなら、『幸福な死』株式会社の職員は挑戦者を生き返らすのである。それが国の決まりであるために。  そしてこの挑戦は百回だけ行える。もしこの百回までに百点満点の死が出せなければ、数百年の間、この挑戦を受けることができなくなってしまうのであった。  残り三回のチャンスで、永遠の休みを手に入れられるか、はたまた数百年労働に従事しなくてはいけないのかがかかっている。全ては『死への満足度』で決まる。K氏は不安を頭の外へ追いやり、次の「死に方」について考えた。時に新聞を手にしたり、併設されている図書館へ向かい本を読んだりする。また話もする。そこにはK氏と同じく百点満点の死に至る方法を求める者の姿が多くあった。 「実際にあり得そうな死に方は、僕の場合は点数が低いみたいで」  出会った男に、K氏は話を聞いた。 「そこで考えたのは、存在するはずのない巨大生物に食われる、というシチュエーションだったのですが、これがいい点数を叩き出しました、八十二点でしたよ」 「ふむ、そういう、一種のロマンチックと言えるものは、あまり考えたことがなかったなぁ」  そこでK氏も、一種ロマンチックと言える死に方を考え「死」施術室へ戻って来た。先程の職員が準備をしてそこで待っていた。 「次の死に方は決まりましたか?」 「図書館で出会った者からヒントを得たよ。ロマンチックな死に方だ……そうだ、宇宙での死がいい。離れていく故郷地球を見ながら、星の海に消えていくのだ。そうして私は星の一つとなるのだ」 「よい死に方だと思います。細かなところや設定はAIが調整してくれるでしょう、ではそのようなストーリーで、死に方を決めますね」  職員は機械を操作する。こうして死に方が決まったのなら、K氏はヘッドギアを装着し、台に横になった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!