K氏の百点満点の死

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 * * *  ちく、ちくり、と痛み二つを感じ、K氏は我に返る。 「九十三点。惜しかったですね」  聞きなれた、楽しそうな声が聞こえた。 「満点には至りませんでしたが、これまで行った中で最高の点数ですよ!」 「しかし百点満点ではなかったということは、チャンスは残り二回となるな」  注射器二本で生き返ったK氏はヘッドギアを外し、溜息を吐く。次に行えば九十九回目、それも失敗したのなら百回目。ここで成功しなくては、待っているのは数百年の労働である。  職員はK氏に微笑みかける。 「そう落ち込まないでください。この路線でいけばいいと、わかったではありませんか。それに、我々はこの仕事に絶対の自信を持っています。その分の多額な給料も受け取っていますし。百回目までに、満足のいく死を与えて見せましょう」 「君の言葉を信じよう。評判がいいからこそ、私はここを選んだのだからな」  この『幸福な死』株式会社の評判はよかった。話によると、百回目までに必ず百点満点の死が得られるのだという。だからこの施設を選んで失敗した者はいないそうだ。  もっとも、本当にそうだった、という実際の声をK氏は聞いたことがなかった。だからこそ施設を決める際に悩んだのだが、逆に声がないことが証拠なのではないかと考えたためにここにいる。死人は喋らない、百点満点を出して無事に『幸福な死』を迎えたのなら「無事に『幸福な死』を迎えられました!」なんて口コミはゼロであってしかるべきなのである。  とはいえ、K氏に残されたチャンスは残り二回であることに変わりない。慎重に「死に方」を決めなくてはならない。K氏は休憩を申し出ると再び外へ向かった。他の者がどんな死に方を試したのか、そして点数が高かったのはどんな死に方なのか、情報を集めなくてはいけなかった。  今度は図書館ではなく、併設されている映画館へ行く。この施設には様々なものが併設されている。噂によれば、国が死を抑制させるために、これら娯楽を添えたなんて話もあるが、「死に方」のインスピレーションを得るにはぴったりであった。  いくらか人と交流してみたものの、K氏にはピンとくるものがなかった。そこで気分転換にそのまま映画を観ることにした。選んだのはアクション映画である。  これまでに様々な死を体験してきた。それこそ、アクション映画に引けを取らないものである。だがやはり映画は面白い。強敵との肉弾戦、裏で行われる頭脳戦。秩序を切り裂くカーチェイスに、日常の全てを破壊する銃による攻防。 「閃いたぞ!」  K氏はスタッフロールが終わったのなら、すぐさま立ち上がった。 「そうだ、先程の死に方でも、私は何かに貢献する形で死んだではないか。それがよかったのではないか? ならば自己を犠牲にし、平和を得るヒーローとして死んでみるのはどうだろう」  K氏は「死」施術室に駆け込んだのなら、職員に早速準備をさせた。
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