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ジュウッとキッチンの方から油で肉が弾む音がする。それだけで拗ねていた心が少し、ほぐれていく。
そっとキッチンを覗けば、ご機嫌そうにフライパンに向かっている。
鼻歌混じりでフライ返しを片手に持ってスウェットにエプロンという、完全に身内感がある姿に思わず笑ってしまう。そういう私も今日はひきこもる予定だったから、同じようにスウェットなんだけど。
「そんなとこで覗いていないで座れよ。もう焼けたから」
「はーい」
結局食べ物の誘惑には勝てず、素直に春希の言う通り、ダイニングチェアに座った。座っている私のテーブルに、春希はかいがいしく用意してくれる。
二年前までは焦がしていたハンバーグも、今日は綺麗な焼き色だ。
そして、ハンバーグにはお子様ランチの旗がついている。
「もう、いらなくない? これ」
思わず苦笑いする私に、向かいの席に座った春希はニヤッと笑う。
「特別感があっていいだろう?」
「特別感というより、子供扱いされている気がするんだけど」
またちょっと拗ねるように私が言うと、春希は水の入ったグラスをゆらゆらと揺らしながら、こちらに視線を向ける。
「十五歳、おめでとう。千春」
「……ありがとう」
手を伸ばせば届く距離にいるのに鳴らないグラスを、お互いそっと口に運んだ。
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