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二十三時五十九分。
もうすぐ四月一日が終わる。
憂鬱であり、だけど確実に家族以外で一人は私の事を大切にしてくれる日が終わる。
壁時計を見ながらスマホ片手にカウントダウンをする。
五、四、三、二、一……
日付が変わるとともにスマホの電源をオンにすると、画面を埋め尽くす通知の波。
グループチャットには数えきれないほどのメッセージ。だけど大抵は重要じゃないからスルーする。
個人宛には、友達からお祝いメッセージがいくつか来ていた。彼女たちも私の不器用さを知っているから、今日電源を落としていることをしっている。それでもお祝いを送ってくれることにありがたさを感じながら、通知がなかった春希の個人メッセージを開く。
学校の事とか、最低限のやりとりしかしていないメッセージ。
最後にやり取りしたのは『期末の範囲教えて』だった。
春希は大事なことは絶対にメッセージで送ってこない。誕生日も、高校の合格も、大事なことは直接伝えてくれる。
私はいつも受け身だった。祝われるだけ。おめでとうって言ってくれるのを待っているだけ。春希に『おめでとう』を言ったのはいつだろうか?
そっとカーテンを開けて春希の部屋を伺えば、遮光カーテンの隙間から、かすかに部屋の灯が見える。
起きてる、よね?
思い切って、フローリングワイパーを持ち、春希の部屋のベランダを叩いてみる。
──コンッ
日中ならかき消されそうなくらい、かすかな音。私からこうして合図をするのはいつぶりだろうか? 春希は一回で気づいてくれるだろうか?
もう一回……そう思ったら、勢いよく窓が開いて、信じられないとでもいうかのような春希がいた。
こうして向かい合う時。春希はいつも余裕の表情をしていたのに。
「千春……」
壁を作っていたのは私。春希はそんな私にいつも向かい合ってくれていた。
これからまた、私達の関係は変わっていけるかな?
伝えたい言葉が、微かに震える。
「誕生日おめでとう。春希」
同級生だけど一歳年上になった幼なじみに、心からお祝いを伝えた。
一日違うだけで全然違う。
エイプリルフールじゃない春希には、祝福の言葉しか届かない。今までそれが羨ましくて悔しかった。
でも毎年、家族だって春希だって、友達だって。お祝いの気持ちに嘘はなかった。どんなに嘘が塗りつぶしても、私が見失わない限り、本当の気持ちは消えないんだ。
来年は、もっと素直に祝われたいし、準備するからね。
合わせられなかったグラスを、来年は鳴らせますように……
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