1.漫才・『走れメロス』

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1.漫才・『走れメロス』

2人「どうも〜! 日野出(ひのいずる)学園大学部、漫才研究会のココアボーイです〜!」 蟹田「私が先輩の蟹田(かにた)で」 小泊「私が後輩の小泊(こどまり)と申します」 蟹田「顔と名前だけでも覚えて行ってくださいね〜」 小泊「まあ、俺らの顔と名前なんか覚えて帰るより、英単語の1つでも覚えて帰った方が良いですけどね」 蟹田「正論で殴らないで!? 客席に受験生さんが居るのは確かだけども!!」 小泊「所で、ちょっと今日先輩に聞きたいことがありまして」 蟹田「何、急に改まって」 小泊「弟が高等部に通ってるんですけど、課題に出された本のタイトルを忘れてしまったんだそうです」 蟹田「はあ? 本のタイトル忘れた!? 何だよそれ」 小泊「色々私も、その本の内容とか特徴を聞いたんですが、益々分からなくなって」 蟹田「よし、それじゃ私がね。文学部の私がビシッと当ててあげようじゃないの」 小泊「お願いします」 蟹田「どんな特徴言ってたの?」 小泊「有名な文豪の代表作で、教科書にも載っていて、主人公がとにかく、走って走って走りまくる本なんだそうです」 蟹田「ほ〜〜……『走れメロス』だな。その特徴は絶対に『走れメロス』だよ。すぐに分かったよこんなもん」 小泊「はぁ。でも、よくわからないんです」 蟹田「何がだよ? メロス以外あり得ないじゃんか」 小泊「弟が言うには、映画化したら大ヒットして、若手俳優の定番コンテンツになったそうなんです」 蟹田「それじゃメロスじゃないかぁ。『走れメロス』は、その知名度の割に映画作品がどマイナーで、すっっくないんだよ。文豪原作で若手俳優の定番って言えば、川端康成の『伊豆の踊り子』や、三島由紀夫の『潮騒』だよ。三浦友和がメロス役やったなんて話聞いたこと無いもの。 メロスのメディアミックスは、短編アニメか朗読CDくらいしかないんだよ。他に何か言ってなかった?」 小泊「昔、NHK教育テレビの『にほんごであそぼ』って番組で、最初の一文が取り上げられたみたいです」 蟹田「メロスだよ! あれだろ?「メロスは激怒した」のカルタだよな。日本の幼稚園児から小学校低学年までの子どもも、みーんな「メロスは激怒した」のセリフが言えるようになったんだから。 あの番組が、寿限無と祇園精舎と、『雨ニモマケズ』と「ややこしや」と一緒に、太宰文学をちびっ子達の頭に叩き込んだんだから。『走れメロス』で決まりだよこんなん」 小泊「でも、どうも分からなくて」 蟹田「何でよ」 小泊「その本を読むと、その作家の通ぶれるみたいなんです」 蟹田「それじゃメロスと違うだろ。『走れメロス』を読んだだけでは、太宰治通とはならないんだよ。教科書に載ってるんだから、ある一定の年齢以降の日本人はほぼ全員読んでいると言って良いんだよ。 メロスは通ぶるための作品じゃなくて、太宰ファンや文学初心者の入り口となるような作品なんだよ。 XJAPANで例えるなら、『Forever Love』的ポジションなんだから。せめて『津軽』や『右大臣実朝』を読まないと、太宰通とは認められないのよ。 うーん、分からないな。他に何か言ってなかった?」 小泊「作者の故郷で、その作品のタイトルを冠した鉄道が走ってるみたいなんです」 蟹田「やっぱり『走れメロス』だよ! それ、津軽鉄道の「走れメロス号」の事だろ!? 電車の中に太宰の本がある観光列車だよ。 五所川原駅から、太宰の生まれ故郷である金木駅まで行ける、唯一の公共交通機関だから! メロスだよこれは! うーん、他にも何か言ってなかった?」 小泊「その作家の本の中では数少ない、小学生にも安心して勧められる本らしいです」 蟹田「絶対にメロスだよ! 太宰文学は、高校生から入った方が沼にハマりやすいんだよ。小学生に『人間失格』は早すぎるし、『お伽草子』の楽しさってのは分からんのよ。 でも『メロス』だけは例外! 川端の『伊豆の踊り子』や、三島の『潮騒』みたく、その作者の中では青少年に安心して勧められる本って幾つかあるけど、『走れメロス』はその中でも別格なの! 勧めやすいの! だって、短いから!! メロスで決まりだ、これは」 小泊「でも、分からないんです」 蟹田「どうしてだよ!!」 小泊「さっきXJAPANで言う『Forever Love 』って言ったじゃないですか。弟が言うには、XJAPANのディスコグラフィーでいえば、『ART OF LIFE』的ポジションだと言うんです」 蟹田「アートオブライフ!? それメロスじゃないよ! メロスは、さっき言ったけど、XJAPANの中では『Forever Love』とか、行っても『Rusty Nail』みたいな、初心者にも安心して勧められるポジションなんだよ。 『ART OF LIFE』は、XJAPAN知らないお客さんの為に説明してみるとだね? 作詞作曲をしてるリーダーYOSHIKIさんの半生を描いてる、30分の超大作なのよ。 最近の音楽は、少しでも音楽を時短で聴きたい人の為に前奏を無くしてるのに、1分17秒も前奏があるんだよ! それもハードロックではなく、ギターのアルペジオとピアノとストリングスのすっごく静か〜なやつで!! しかも再生して15分経ってから、ピアノのフリーソロが10分くらい延々と続くのさ! もう、バララララ〜っ!て10分アドリブで弾きまくってんの。そんで、24分19秒から、ハードロックな曲調に戻って、クライマックス4分駆け抜けて終わるのよ。初見ぶっ殺しナンバーよ。ある意味最強のキラーチューンだよ。『走れメロス』な訳が無い!! 太宰文学で『ART OF LIFE』的な作品って言ったら、『人間失格』か、初の作品集『晩年』丸々一冊分だから! それはメロスじゃないよ。他に何か言ってなかった?」 小泊「ラストで、主人公が赤面するみたいなんですよ」 蟹田「メロスだよ! 絶対メロスだよ! 真っ裸に近いくらいボッロボロになったメロスが、セリヌンティウスと熱い抱擁を交わして、その後女の子が布かなんか持ってくるんだよ。その時初めてメロスは、自分が真っ裸だと気づいて赤面する名シーンだ。 勇ましいメロス。男たちの抱擁、恥ずかしがるギャップ萌え。腐女子なら鼻血ブーしてもおかしく無いような名場面だから。 『走れメロス』だ。決まりだよこんなもん」 小泊「それが、やっぱりわからないんですよ」 蟹田「どうしてだよ! どうしてこれだけ『走れメロス』の要素があるにも関わらずわからないんだよ」 小泊「弟が言うには、『走れメロス』ではないって言うんです」 蟹田「それはメロスじゃないよ! 弟くんが『走れメロス』ではないって言うんだったら、その本はメロスじゃないよ。それ先に言ってくれよ。俺がXJAPANの例え話をしたり、腐女子が鼻血ブーの話をしてる時に、どんな気持ちで聴いてたんだよ」 小泊「申し訳ないなと」 蟹田「頼むよ」 小泊「それで、ここに来る前に、学園の理事長先生にも聞いてみたんですけど」 蟹田「お前、そんな事を理事長先生に聞くんじゃねーよ!! でも、何て答えたの?」 小泊「『桜桃』じゃないかと」 蟹田「あ〜、来月には桜桃忌だからね〜……って、そんな訳ねーだろ!」 蟹田・小泊「どうも、ありがとうございました〜!!」 (私立・日野出学園2018年GWイベントにて初演。台本、大場洋二(おおばようじ)演者 ココアボーイ蟹田・小泊。漫才研究会講演記録及び、台本集より)
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