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7.雪の夜の話
国境のクソ短いトンネルを抜けると雪国だった。夜の底は白くなる筈が、カラフルに煌めいていた。駅に列車が止まった。
窓外には、ど田舎の分際でクリスマスイルミネーションが賑やかに輝く。誰が見てんだか。ここは地元だが、町内会費の無駄遣いだ。
俺の居る車両は、作者の頭の中みたいにがらんとしている。駅のホームも同様で、乗ってくる客すらいない。
……と、思っていたら、何故か猫が乗り込んできた。少し痩せた黒猫だ。首輪もない。手を差し出すとこちらに近寄ってきた。膝に飛び乗り、そのまま落ち着いてしまう。猫の身体が冷えていたのは素人にもわかる。
川端みたいな書き出しで始まった本だが、実は俺は、「死のうと思っていた」。コレじゃ太宰治の書き出しだ。
クリスマスイブに死ぬのは、「連中」へのせめてもの当てつけだ。実家に来たのは、お別れの為でもあった。
「俺とお前だけだな」誰も居ない車内、ホーム、駅前広場。無駄に電力を喰らい輝くイルミが虚しい。そんな様を、猫と見ていた。ここは死ぬには寂しすぎる。
「なあ、俺ん家来るか? 次の駅なんだが」
黒猫はニャーと鳴いて眠りについた。
コイツを太らせるまでは生きていようと思った。
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