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後日談☆
凛ちゃんにプロポーズされた一か月後、私たちは役所に婚姻届を提出した。
「なんか、『夫婦になった』っていう実感湧かないね」
「まあ、役所に書類提出しただけだしな」
役所からの帰りの車内で、私たちはそんな会話をしていた。
凛ちゃんにプロポーズされてから今日まで、私は彼と結婚するこの日を楽しみにしていた。しかし、実際に婚姻届を提出してみると、「結婚した」という実感がイマイチ湧かない。
これから徐々に「夫婦になった」と実感していくのだろうか。
ちなみに、私たちの結婚は、凛ちゃんが名前を変えるために、婿入りという形になった。理由は、酒々井凛という名前が反田組の幹部として、過去のネット記事やアウトロー系の雑誌に載っているせいだ。
つまり、彼の名前は「副島凛」になっている。
そうか。凛ちゃんの今のフルネームって、「副島凛」なのか。
改めてそのことを考えると、私の胸が高鳴った。
婚姻届と言えば、一つ衝撃的な出来事があった。――それは証人のことだ。
私は両親が他界しており兄弟もおらず、凛ちゃんは家族と縁が切れている。
話し合った結果、婚姻届の証人は二人の共通の知人にしようということになり、一人目は和住さんに決まった。
しかし、二人目に関してはなかなか良い人が決まらなかった。
――じゃあ、俺が証人になりましょうか?
二人目の証人が決まらないことを舞島くんに何気なく話すと、彼は気合の入った様子で名乗り出てきた。
実は、凛ちゃんがヤクザを辞めた後、同じくヤクザを辞めた舞島くんは、うちの店でアルバイトを始めた。
舞島くんには、主にレジと閉店作業時の掃除をお願いしている。アルバイトを雇ったことで、私は調理場で弁当作りに集中でき、仕事も楽になった。
しかし、舞島くんはまだ十代なので証人になれない。「二十歳以上でないと証人になれない」ことを舞島くんに話すと、彼はしょんぼりと肩を落としていた。
和住さんに署名してもらうために、私たちは久々に彼のタトゥースタジオに向かった。
すると、そこには真っ青な顔をして縮こまっている和住さんと、――満面の笑みを浮かべた浅田さんがいた。
――お二人ともご結婚おめでとうございます!酒々井さんが足を洗われたとは聞いていましたが、まさかお二人がゴールインされるだなんて……!先ほど、和住さんから聞いたのですが、二人目の証人がまだ決まっていないそうじゃないですか。私で良ければ、証人になりますよ!
浅田さんは私たちに拍手を送りながら、早口で捲し立てる。そんな彼に対して、私たちは呆気に取られてしまった。
そして、私たちに有無を言わさずに、婚姻届に署名と捺印をして、「お幸せに!」と言い残して帰っていった。
凛ちゃんが鬼の形相で和住さんを睨むと、和住さんは半べそになりながら「ごめんね、後で塩撒いとくから」と言った。
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