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●月×日。
いつのまにか、毎日学校のかえりに、こうえんによるようになりました。
お兄さんはいっしょうけんめい歌を作りつづけています。雨の日やすごくあつい日にはいないので、たぶんそういう日は家で歌をつくっているのでしょう。
お兄さんは曲と、かしを、いっしょにつくっているそうです。ちょっとだけ歌ってきかせてくれました。
わたしは歌をおぼえるのがとくいなので、一番はすぐにおぼえてしまいました。
『「平和な世界を作る」ということは
「きらいなだれかをころす」こととイコールですか?
ああ どうして全てのことを
ぜんかあくかのどちらかに分けたがるの?
愛がなければきっと見えないでしょう
あなたを見つめるだれかのおびえためも
仲間にならない子を全部けしさることが
あなたにとってのハッピーエンドなのですか?』
けっこうこわい歌だなあ、とわたしは思いました。どうして平和の歌なのに、きらいなだれかをころす、なんてこわい言葉が入ってくるのでしょうか。
わたしがそうたずねると、お兄さんは「それが世界のしんじつだからだよ」と言いました。
「子どもたちにみんな、相手がいやだと思うことはやっちゃいけないっておしえるだろう?でも、大人はそう言うのに、自分たちはできてないことがほとんどだと思わないか?」
「そうなの?」
「うん。たとえば、学校でけんかがおきたとする。すると、けんかしている子たちをなかなおりさせないといけないよね。もし、わるいことをしている子がいたら、ダメだとおしえないといけないよね。でも、そういう時に、けんかしている子がクラスからいなくなればいいっておもって、おいだそうとする人がいたら。サキちゃんは、どう思う?」
「え、そんなの、ぜったいだめだよ!きらいな子だって、学校にいたいのに!」
「そういうこと。でも、大人の中には、そういうこをとへいきでしようとする人がいる。おいだすどころか、ころしてしまえば平和になると思う人がいるんだ。それは、すごくかなしいことだよね……」
わたしにはまだ、むずかしいことはわかりません。
でもお兄さんが、そのむずかしいことをがんばってつたえようとしていることはわかります。
「よくわかんないけど」
わたしも、何かをつたえたいと思いました。
「なかまはずれの子を、いなかったことにするような子は。こんどは自分が、なかまはずれにされちゃうと思う……」
するとお兄さんは笑って言いました。
「それ、すごくいいね。そのことば、ぼくの歌につかってもいい?」
「ほんと?」
「うん、ほんとほんと!」
お兄さんは、歌がかんせいしたら聞かせてくれるとやくそくしてくれました。
わたしはとても、それが楽しみだと思いました。
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