あなたの祈りと、世界の始まり。

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 ***  ●月×日。  驚いた。まさかこんな古い日記が残っていたとは思ってもみなかった。  こんなもの、今更続きを書いても誰も見ないとは思うけれど、むしろ見せるようなものではないけれど。あの頃の私に伝わるといいなと思って、筆を取ってみようと思う。  小学二年生だった私は今、高校生になっている。今年から受験生、正直気が重いったらない。気晴らしに机の掃除をしていたらこの日記が出ていた。そういえば、今使っている学習机は、小学生の頃からずっと使い続けているものだ。古いノートとかがしまわれたまま忘れ去られていても何もおかしくはないのだが。  当時、私は何も分かっていなかった。  気づいたのはもう少し大きくなってからのことだ。――あの公園が、病院の敷地に隣接していたことは。  そう、病院の入院患者が散歩に来る公園だったのだ。彼がいつも似たような服、つまりパジャマっぽい服を着ていたのは入院していたからだったのだろう。  学校を休んで、ほぼ毎日あの公園で歌を作っていた彼。何の病気だったのかは知らない。そもそも私が何も気づいてないことを悟って、彼も何も話さないでいてくれたのだろう。ただ、最初に出会ってから少なくとも一か月、彼は平日でも変わらずあの公園に来ていた。それだけの長期入院、ただの検査だったとは考えにくい。  そして来なくなった理由。元気そうに見えたけれど、本当はとても具合が悪かったのかもしれない。もちろん退院した可能性もゼロではないけれど、私は正直真実を知るのが怖かった。きっとそうではないだろうという確信があったからだろうか。  理解した時は、自分でもびっくりするほど涙が出た。  私が、自分でも思っていたよりずっと、お兄さんの歌を気に入っていたということなのだろう。  あるいは、どこか遠くを見つめるアキトさんの目を、彼自身を気に入っていたからなのだろうか。  それとも、彼の想いが世界のどこにも届かなくなったことが、悲しくてならなかったからなのだろうか。  そして私は、彼のことを忘れようとした。そうでないと、胸の奥に突き刺さった棘みたいな感情に、殺されるような気がしてしまったから。  今。  この日記を見つけたのは、何かの天啓だったような気がしてならない。悲劇を嘆いて、暗い結末を憂いたあの頃の私に真実を伝えてあげてほしいと。誰かがそう言ってくれたような気がしたのだ。  だってそう、昨日のことなのだ。  YouTubeにアップされている、AKITOという人の動画を見つけたのは。
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