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深夜を過ぎた頃、ほの暗いその一室では重苦しい空気が流れていた。
「なるほど。これにお嬢を押し込んで連れ去ろうとしてたのか」
ベッドに腰掛けたダダンが、床に広げたキャリーケースを睨み付けながら言う。
中央のローテーブルを挟んで、スタンは「どう見る?」と問い返した。
「十中八九計画的だ。だが、北区の『友愛の塔』に行くのを決めたのは朝で、知ってたのはお前さんとお嬢のみ。どうやってその情報を得たんだ?」
「、、、おい」
「さぁな。つけられた覚えはないが、浮遊中に姿を消す魔術は使うなとお嬢様に言われた。離れた場所から尾行していたなら、その限りとは言えない」
スタンの返しにダダンは顔をしかめて悩んだ。
「おい」
「これがマイロさんの所のブランド品なら、買い手を探す手段が無くはないが、、、」
「難しいだろうな。いつ購入された物かも分からん」
ダダンは「だよなぁ」と天井を仰ぐ。
すると、「おい!」と強めの声。
腰掛けたダダンの後ろで横になっているカリオンだった。
「先程から貴様ら、無視をするな」
「悪い悪い」とダダン。
「第一、何故俺の家で相談事をしている」
「この時間店はほとんどやってねぇんだし、内密な話だ。仕方ねぇだろ?」
「だとして、お前の家でやれば良いだろ?」
「怪我人をこの時間に呼び出すなんて野暮な真似はしねぇよ」
「、、、あぁ、俺の参加は強制なのか」
「当たり前だろ。専属の護衛なんだからよ」
カリオンは得心して、「良し、続けろ」と言う。
ダダンはスタンへと向き直り、「まぁ、兎に角だ」と険しい顔をした。
「明日から暫くは人数を増やして、24時間体制での護衛をする。マイロさんには朝イチで俺から話そう」
「それが良い。ただ、俺が護衛の時間は一人で良い」
「構わねぇが、何か理由があるのか?」
「用意する護衛に長時間の飛行魔術使用が可能か、若しくは見失わずに着いてこれる者が居るならば、付けてくれても構わない」
「そりゃあ、、、無理だな。まぁ、お前さんなら心配はいらねぇか」
「万一が無いとは言えないが、最大限の警戒はしておく」
ダダンは頷き、「取り敢えず、これは預かっておく」とキャリーケースを畳む。
「そういや、何でこの時間だったんだ?」
ダダンに問われ、「ん?」とスタンは首を捻る。
「いや、報告があったのは早かったが、お嬢を家に送り届けた後でも会えただろ?」
「妹の宿題を見ていた。あとは家の手伝いと、妹の制服に付与した術式の確認、それから妹が寝るまで話し相手になっていた」
ダダンとカリオンは目を丸くする。
二人はしかし、直ぐに優しい目を向けた。
「それじゃあ仕方ねぇな」
そう言うダダンに、スタンも「あぁ、外せない用事だ」と頷いた。
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