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ナナリーは胸に手を当て、深く息を吐く。
どうやら色々と勘違いが蔓延っているようだ。
「えっと、先ず、先ずね。訂正させてほしいんだけど、私はあなたを狙ってないわ」
スタンは目を細くする。
「では、俺の家族か?」
「聞いたけど、それって大佐やミアちゃんの事でしょ?狙うわけないじゃない」
「、、、まさか爺ちゃんか?」
「お爺さんってロイさんかな?ううん。それも違う」
そこに嘘は見受けられない。
スタンは首を傾げる。
「じゃあ何だ?何故あの時、俺を睨んでいた?」
「あの時?」
「昨日、食堂でだ。お前が意識を失う前ーー」
言ってはたとスタンは目を大きくした。
「記憶が無い?意識障害か?まさか、消された?」
「何の話をしているの?」
「誰かに接触したりはーーいや、S4ならばこんなまどろっこしい真似はしないな。俺の前に堂々と出てくるはずだ」
「ちょっと、、、スタン、くん?」
呼びづらそうに言うと、スタンが一瞬だけギロッと睨む。
「スタンで良い。記憶が無いならば、お前は関係なさそうだ」
「記憶って、何の話なの?」
「昨日、お前が気絶する前の記憶だ。俺と食堂で口論しただろう?」
言いつつも、「まぁ、覚えてないか」とスタン。
しかしナナリーは、「それなら、残念ながら覚えてます」と顔を赤くした。
「覚えているのか?」
「断片的にだけど、覚えてる」
ナナリーは「本当は忘れたいけど」と小声で付け足した。
「では、あの時何故俺を睨んでいた?」
「え!?あー、あれは、えっと、、、深い意味は、ないというか」
尻すぼみになる声音。
スタンは眉を潜める。
暫し沈黙して、「分かった」と頷いた。
「信じよう。ならば、俺の勘違いだったのか」
「う、うん。それは全くもって、そうだと思う」
ナナリーは顔を真っ赤にして俯きがちに言う。
「失礼した」とスタンは頭を下げる。
「勘違いで呼び出してしまうとは、すまない」
「それは!全然大丈夫だから!」
ナナリーは慌てる。
「気にしないで!むしろラッキー?みたいな」
「ラッキー?」とスタンは顔を上げる。
「あ!いやいや!息抜きになったし?」
思考が滅裂となり、自分で意味も分からず「ね!」とウインクをしていた。
静寂が流れる。
スタンがフフと笑う。
ナナリーは顔から湯気を出し、死にたくなっていた。
「そう言ってくれると助かる。ありがとう。ナナリー」
不思議な現象であった。
前半でスタンが何と言ったか忘れてしまう程に、己の名が脳内で反響する。
何度も、何度も。
「もう一回」
「ん?」
「もう一回、、、呼んで?」
「、、、は?」
困惑するスタンに、ナナリーははたと我を取り戻す。
「な、何でもない!えっと!ご飯の時間だよね!食堂行こ!食堂!!」
背を向け勝手に歩き出す。
その歩き方は、同じ側の手と足を同時に出すという滑稽なものであった。
スタンは何故かいたたまれなくなり、「何なんだ」と背を追う事しか出来なかった。
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