第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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ナナリーは胸に手を当て、深く息を吐く。 どうやら色々と勘違いが蔓延っているようだ。 「えっと、先ず、先ずね。訂正させてほしいんだけど、私はあなたを狙ってないわ」 スタンは目を細くする。 「では、俺の家族か?」 「聞いたけど、それって大佐やミアちゃんの事でしょ?狙うわけないじゃない」 「、、、まさか爺ちゃんか?」 「お爺さんってロイさんかな?ううん。それも違う」 そこに嘘は見受けられない。 スタンは首を傾げる。 「じゃあ何だ?何故あの時、俺を睨んでいた?」 「あの時?」 「昨日、食堂でだ。お前が意識を失う前ーー」 言ってはたとスタンは目を大きくした。 「記憶が無い?意識障害か?まさか、消された?」 「何の話をしているの?」 「誰かに接触したりはーーいや、S4ならばこんなまどろっこしい真似はしないな。俺の前に堂々と出てくるはずだ」 「ちょっと、、、スタン、くん?」 呼びづらそうに言うと、スタンが一瞬だけギロッと睨む。 「スタンで良い。記憶が無いならば、お前は関係なさそうだ」 「記憶って、何の話なの?」 「昨日、お前が気絶する前の記憶だ。俺と食堂で口論しただろう?」 言いつつも、「まぁ、覚えてないか」とスタン。 しかしナナリーは、「それなら、残念ながら覚えてます」と顔を赤くした。 「覚えているのか?」 「断片的にだけど、覚えてる」 ナナリーは「本当は忘れたいけど」と小声で付け足した。 「では、あの時何故俺を睨んでいた?」 「え!?あー、あれは、えっと、、、深い意味は、ないというか」 尻すぼみになる声音。 スタンは眉を潜める。 暫し沈黙して、「分かった」と頷いた。 「信じよう。ならば、俺の勘違いだったのか」 「う、うん。それは全くもって、そうだと思う」 ナナリーは顔を真っ赤にして俯きがちに言う。 「失礼した」とスタンは頭を下げる。 「勘違いで呼び出してしまうとは、すまない」 「それは!全然大丈夫だから!」 ナナリーは慌てる。 「気にしないで!むしろラッキー?みたいな」 「ラッキー?」とスタンは顔を上げる。 「あ!いやいや!息抜きになったし?」 思考が滅裂となり、自分で意味も分からず「ね!」とウインクをしていた。 静寂が流れる。 スタンがフフと笑う。 ナナリーは顔から湯気を出し、死にたくなっていた。 「そう言ってくれると助かる。ありがとう。ナナリー」 不思議な現象であった。 前半でスタンが何と言ったか忘れてしまう程に、己の名が脳内で反響する。 何度も、何度も。 「もう一回」 「ん?」 「もう一回、、、呼んで?」 「、、、は?」 困惑するスタンに、ナナリーははたと我を取り戻す。 「な、何でもない!えっと!ご飯の時間だよね!食堂行こ!食堂!!」 背を向け勝手に歩き出す。 その歩き方は、同じ側の手と足を同時に出すという滑稽なものであった。 スタンは何故かいたたまれなくなり、「何なんだ」と背を追う事しか出来なかった。
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