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医官であるマリアは、己の仕事場である『医務室』のベッドを一つ占領しているそいつ、ナナリーに憤りを覚えていた。
「それでなに?食堂でじゃあねって別れて来たの?一緒に食事しようとも言わずに?」
マリアの呆れた口調に、ナナリーは枕に顔を突っ伏して「うー」と唸った。
「だって、上手く話せないんだもん」
「知らないわよ根性なし。負のオーラ撒き散らすなら他所でやって」
「そんな事言わないでよぉ」
ナナリーは顔を上げ、こちらに背を向けて机に向かい書類を確認していくマリアを見た。
「親友でしょ?」
「親友なら仕事の邪魔しないで。大体、あんたも仕事あるでしょうが」
「会議ならまだ時間あるから大丈夫だもん」
「あんたはね。私は仕事があるの」
振り返って強く言われる。
「、、、ごめん」
ナナリーは悲し気に枕にもう一度突っ伏して、次には起き上がる。
マリアは伏し目をしたままのナナリーに大きな溜め息を溢した。
「まぁ、誤解は解けたんでしょ?良かったじゃない」
「そうだけど、、、」
「そうだけど、なに?」
「何か、モヤモヤする」
マリアは「はぁ?」と首を傾げ、はたと気付いてニヤニヤした。
「なるほどね。接点が無くなったから残念なのね」
ナナリーは目を大きく開いた。
「そ、そんな訳ないでしょ!」
声を大に否定するも、顔は真っ赤だ。
「その言い方がもう肯定してるのよ。そのモヤモヤは、スタンくんに会ってる間は無いでしょ?」
ナナリーは「うーん」と思考し、「ないわ」と答えた。
「ほら、答え出たじゃない」
「え、じゃあ私ずっとこのモヤモヤしたままなの?」
「当たり前じゃない。恋愛ってそういうものよ」
「仕事に支障が出てるんだけど?」
「知らないわよ。まぁ、昔から知ってるあんたに恋愛相談されるのも初めてだし、戸惑いもあるんじゃない?」
「どうしたら治るの?」
不安そうに尋ねるナナリーに、「簡単よ」とマリア。
「何でも良いから会う口実を作って、何回もデートに行って、彼を落として自分の物にすれば良いの。そうすれば、少なくともそのモヤモヤは無くなるわね」
「絶対無理なやつじゃん」
「じゃあ告白してきたら?フラれれば違うモヤモヤに出来るわよ?」
ナナリーは泣きそうな顔になり、「マリアー」とベッドから飛び降りて抱き締めてくる。
形の良い大きな胸が顔に押し当てられ、マリアは苛立つ。
「ええい鬱陶しい」とナナリーを突き放した。
「さっきプラムくんに聞いたけど、彼、『グリムソード』に所属してて、そこでの仕事が無い時間は第三の訓練に参加するみたいよ?手伝ってあげるから、ちゃんと頑張ってみなさい。戦いしか知らないあんたの、折角の初恋なんだから」
そう言って微笑むので、今度は嬉しそうに「マリアー」と抱き締めてくる。
またも顔面を胸に包まれ、「だから、鬱陶しいって言ってるでしょ」とマリアは苛立ちを加速させた。
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