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一学期が終了し長期休暇に入る前、今から数週間前の話になる。
その日、食堂は酷く混んでいた。
学食以外にある購買部が何らかの問題で使用不可になった期間があり、それが原因であると分かっていた。
ミアはいつものように一人で食事を注文し、座る場所を探していた。
テーブルの間の通路を右往左往しても、なかなか見つからず困り果てていた時である。
ミアの後ろを通ろうとした生徒にぶつかられ、ミアは誤って食事を乗せているプレートを傾けてしまう。
食事は無事であったが、コップが傾き前の生徒の服に中の水がかかってしまった。
慌てたミアは「すみません!」と即座に謝ったが、水のかかった生徒の隣に座っていた生徒が「何してるのよ!」と立ち上がる。
それはサーシャであった。
「自分が何をしたか分かっているの!?」
怒鳴るサーシャを、水のかかった生徒が右手で制して立ち上がる。
「私もちゃんと見ておりませんでした。あなたに非はありませんよ」
そう言いながら微笑んでいたのが、件のシャーロットである。
「食事は、無事なようですね。良かった」
慈愛のある笑みを向けるシャーロットにしかし、ミアは畏怖していた。
テレンシア王国第二王女。
この国の最高位の地位を持つ一人である。
「大変失礼致しました!か、必ずお詫びを致します!」
逼迫した様子のミアに、シャーロットは困った顔をした。
隣ではサーシャが何やら怒鳴っているが、ミアにはその声も聞こえない程だった。
貴族への無礼は、この国では最悪死罪もあり得る。
それも王女となれば、その一言で全てが決められてしまうのだ。
人生終了の危機。
なれど、「大丈夫だから、顔を上げて」とシャーロット。
俯くミアの頬に手を触れ、眉を八の字にして微笑んでいる。
「で、ですが」とミアが言えば、何かを考え込む。
そうして、「そうだわ」と溌剌な笑顔を取り戻した。
「では、私と"お友達"になってください」
「、、、え?」
周りで顛末を見守っていた生徒も、怒鳴っていたサーシャも、ミア本人でさえも困惑していた。
「気兼ねのいらない友人が欲しかった所です。あなたがなってくださらない?"ミア"さん」
「、、、私の名前」
「当然です。同じクラスですもの」
微笑んだままのシャーロットに、その透き通った眼差しで見つめてくる姿に、ミアは思わず「はい」と答えていた。
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