第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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街並みを眼下に飛翔するスタンとサーシャは、北区へと向かっていた。 「ねぇ、スタン」 抱えられたサーシャが呼んで、「何だ?」とスタンは視線を向ける。 「今日ね。あなたに教えてもらった所が授業で出題されたのよ」 「教えた所?」 「ほら、今朝教えてくれたじゃない。飛行魔術の術式。風属性の性質変化術式よ」 「あぁ、そんな話もしたな」 表情を変えずに答えるので、サーシャはムスッとする。 「あなた、あまり笑わないのね」 「、、、なに?」 「もう少し愛想があっても良いんじゃない?」 「無理に笑う事の何処が良いんだ?」 「愛想笑いって言葉があるくらいなのだから、悪い事ではなくてよ?」 「ヘラヘラしてる奴は信用できん。気味が悪いだけじゃないか」 返しにサーシャはハッとして、途端に表情を暗くした。 「どうした?」 「え?、、、あぁ、何でもないわ」 サーシャは小さく咳払いをして、「それより」と街並みを見下ろす。 「北区はやっぱり、汚いわね」 現在は北区の上空を飛翔している。 上空から見れば、街の様相は一目でわかる。 貧困層の密集した地域。 道端で横になっている人間も居れば、裸同然の格好で客引きをしている女も見受けられた。 「衛生的ではないな」 スタンが言えば、サーシャははたと苦虫を噛み潰したような顔をした。 「ごめんなさい。表現が良くなかったわね」 スタンは答えず、目的地を真っ直ぐに見定めている。 「私の家もね。お父様の代で会社を作るまでは、そうだったの」 「そうか」 「貧しい家庭で、その日食べる物にも困っていたそうよ」 「、、、そうか」 「でも、お父様とおじ様、お父様の弟が商会で働き始めて、お金を貯めて、二人で商売を始めたの」 スタンは無言で頷く。 「そうして貴族だったお母様をお嫁にもらって、私が生まれた」 「、、、そうか」 「成り上がりと言われたらそれまでだけれど、私も一つ違っていたら、あの場に居たかもしれない」 サーシャの視線を追えば、物乞いがそこに居た。 スタンは眉を潜め、「それは無いだろう」と言う。 「え?」 「もしも別で生まれ、貧困に喘いだとして、それは別の人間だ。お前じゃない」 言葉にサーシャは閉口した。 そうして嬉しそうに少しだけ笑みを浮かべ、「そうね」と返す。 目的の塔までは、もう少しという所まで来ていた。
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