第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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『友愛の塔』に到着すると、スタンはゆっくりと入り口へ降りた。 遠くに見ていただけでは思わなかったが、目の前ともなると遥かに大きな塔だ。 サーシャはスタンから降ろされると、慣れたように入り口へと向かう。 スタンも後ろから着いていく。 両開きの扉を開けて中へ入ると、エントランスは広く思えた。 サーシャは受付へと向かう。 「大人二枚お願い」 受付の人間にサーシャが言えば、手慣れたように二枚のチケットを渡してきた。 「自分の分は出す」 財布を取り出すスタンに、「何言ってるの」とサーシャ。 「あなたは私の我儘で居るのだし、護衛よ?必要ないわ」 有無を言わせぬそれに、スタンは「分かった」と答えるしかなかった。 チケットを受け取ると、エントランスを抜けて入場口へと向かう。 入場口の人間にチケットを渡し、通路を奥へ進むと、開けた空間に出た。 そこにある像を見て、さしものスタンも感嘆の声を漏らした。 両手を合わせ祈る猫の顔をした女の像が、遥か天井付近まで聳え立っている。 囲むようにして、塔の外壁をなぞり剥き出しの階段が続いていた。 「行くわよ」とサーシャ。 階段を上っていくので、スタンもそれに続いた。 サーシャは壁に等間隔に設置された絵画とその説明文を眺めながら、ゆっくりと上っていく。 「嘗ての歴史よ」 「亜人の歴史か」 「それと、戦争の歴史」 悲しそうにサーシャが言う。 「獣人が奴隷だった頃の歴史、、、」 サーシャは言って、「今もそう」と続ける。 「変わらない。獣人を奴隷として扱う人間は多いわ」 「、、、根付いた文化とは、そう簡単に取り払えない。悪の歴史が繰り返されるのと同じように、どの世界も、どの世代も、当たり前にある物を壊し、変じ、新しく作り上げていくのは難しい。爺ちゃんが昔言っていた」 サーシャは立ち止まり、小さく微笑む。 「あなたのお爺さんは、人間を良く理解していたのね」 スタンはそれに「いや」と苦笑いをする。 「俺は人間の浅い部分。欲ってもんしか分からねぇ。その根底にある"愛"って名の付く寝惚けた思想にゃあ、とんと理解が及ばねぇさ」 途端に口調を変えたので、サーシャは首を捻る。 スタンは苦笑いから自嘲にも見える笑みへと変じて、「爺ちゃんが良くそう言っていた」と続けた。 サーシャは聞いて、「それこそ、人間らしい人ね」と笑う。 サーシャはまた階段を上り始める。 「先を急ぎましょう。見たい物があるの」 スタンは無言で頷いて、サーシャの背を追った。
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