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紛争や孤児、軍人達のやたら幸せそうな絵画などを通り過ぎて、女神像の顔付近まで上ってくると、広い床のある場所に出た。
女神の顔を拝みながら、色々な展示物を鑑賞できる場所らしい。
サーシャは今日で一番テンションを上げていて、「こっちよ」と駆け出す。
スタンがゆっくりと着いていけば、サーシャは一つの展示物の前で立ち止まっていた。
それは、一枚の紙だった。
当然ながら貴重なものとして、重厚なガラスに幾つもの防護術式を施していた。
説明文の始めには、『友愛宣言の誓約書』とある。
「アルス歴755年。今から丁度50年前よ。当時のテレンシア国王、ローゼス・ヨハネス・テレンシアが世界に勧告した。世界で初めて亜人を人類として認めた事を示す誓約書よ」
サーシャがこちらを見もせずに言う。
その目は、誓約書をうっとりとして眺めていた。
「つまり王国は、獣人に限らずエルフもドワーフも国交相手として同列の立場であると宣言したの」
「、、、そうか」
「これは凄い事なのよ?だって、それまで世界では、人間以外の種族は皆家畜同然という思想で満たされていたのだから」
「見たかったのはそれか?」
サーシャは頷く。
「半年後に、友愛宣言50周年を祝った式典が開催されるの。その前にもう一度、ここに来てこれを見たかったの」
スタンにとってはただの展示物に過ぎなく、何故サーシャがそこまで拘ったのか理解が及ばなかった。
表情で察したのか、サーシャは「私ね」と続ける。
「亜人の皆が世界で自由に生きられる世の中にしたいの」
「、、、自由に?ダダン達は既に自由に生きているように見えるが?」
「王国ではもうそれが当たり前よ。でも、さっきも言ったけど、未だに亜人を虐げる思想は蔓延っているの。私はいつか、それを払拭したい」
スタンは「フム」と腕組みをしてサーシャを睨んだ。
「それがお前の夢か?」
サーシャは「えぇ、そうよ」と笑顔で頷く。
スタンは沈黙したが、面倒そうに再度口を開く。
「では何故、ミアをイジメた?」
問い掛けに、サーシャはハッとした。
「そのような慈しむべき思想を持っていながら、亜人に向けたその慈愛を何故、身近な人間に向けられなかった?」
スタンは責めているつもりは無かった。
単純な疑問。
けれども言葉は、サーシャの胸に深く突き刺さった。
「俺には分からない。ダダン達以外にも亜人には幾度か会ってきた。それなりに人間達とも会話を重ねてきた。あいつらは見た目以外何一つ違いが見当たらない。だから、お前の考えが分からない」
己の中の事実を述べる。
この質疑に応答があるか。
実際はどうでも良さもあったが、知っておくべきではないかと思った。
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