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サーシャは黙っていた。
答えられないのだろうか。
静かに俯き、その表情に影を落とす。
人目があれば理解できた。
けれども既に人気の無い施設なのだろう、現在において二人以外の人間は見当たらなかった。
答えを得られないのならばどうでも良いとスタンが口を開こうとした時、「分かってた」とサーシャが言った。
「醜い行為であると、理解していたわ。でも、、、何で彼女なの?」
スタンは「どういう意味だ?」と問う。
「友愛宣言の式典では、学院の優秀者が選ばれる。50周年を祝っての式典では、今年は一年の優秀者が選ばれると聞いて、私は嬉しかった。ずっと努力をしてきて、やっとチャンスが巡ってきたと思った」
サーシャの顔は、悲痛な色へと変じていく。
「私の上には、シャーロット様しかいなかった。彼女は第二王女で、式典には別枠で参加が決まってる。だから、私が選ばれるはずだった。なのに、、、なのに彼女が現れた」
「ミアが、何をしたんだ?」
サーシャは首を振る。
「何もしてない。ただ、優秀だっただけ。どんなに努力を重ねても、彼女は常に学年一位。二位はシャーロット様で、その次が私よ」
「、、、それが理由か?」
「だって!ムカついたんだもの!彼女はそもそも軍事志望よ!?学院に来る意味なんてほとんど無いわ!なのに、なのに士官学校を選ばず、魔術学院を選んだ。そうやって、何も知らないまま私の夢を奪ったの!!」
情緒を失った表情は崩れ、次第に瞳を潤ませていく。
自嘲、悲観、憤り。
それら全てがない交ぜにされた、苦しい顔色であった。
「彼女は辞めた所で、士官学校に編入すれば済む話。彼女の成績ならトップクラスでの編入も出来る。寧ろその方が軍に入った時に有用になる。だったら、学院なんて辞めてそっちに行ってよ、、、」
まるで懇願。
吐き捨てた台詞は暴論だ。
瞳からは涙が溢れていた。
悔しさを滲ませたものであると、スタンにも理解できた。
「我儘だって言いたいんでしょ?自分でも分かっているわよ」
唇を噛み、強い眼差しをスタンへ向ける。
「でも、夢に我儘でいて何が悪いの!必死で掴もうとして、何が悪いのよ!」
スタンは黙って聞いていた。
サーシャは涙を拭い、喉が苦しいのか咳き込む。
「滑稽でしょ?それが理由よ。ほら、笑いなさいよ。馬鹿にすれば良いわ」
「何故俺がそんな事をする?」
「だって、あなたの妹をイジメていた理由がそんなものよ?笑えてくるでしょ?」
スタンは首を傾げる。
「笑う要素が何処にある?お前は夢の為に努力を重ねただけなのだろう?」
スタンの瞳には、蔑みも同情もない。
ただ、真実のみを瞳に宿し語っていた。
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