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「確かに、誉められた行為ではない。ミアに危害を加えるなら、今後俺はお前の敵にもなり得るだろう。だが、自身の夢の為に必死に構築した手順を俺は笑わない」
続けたスタンに、サーシャは悲痛の表情から色を取り戻していく。
「俺には夢という物が無いから、お前の気持ちも、努力というプロセスも理解には及ばない。けれど、叶えたい夢の為に手段を選ばないという"欲"は理解できる」
「、、、スタン」
「ひたむきに正道で努力するというのは、誰もが出来る事じゃない」
スタンはふと、昔を思い出す。
過るのは、自身を「親友」と呼び続けた頭のイカれた同僚だった。
「邪道で良いじゃないか。誰が蔑もうと、それも間違いなく努力だ。だからーー」
瞬間に微笑んだスタンの顔を、サーシャは強く脳裏に焼き付けてしまう。
「ーーお前は間違っていない。失敗したのは、俺という障害が発生したからだ。ミアの排除は既に不可能だ。ならば、別の努力をまた模索すれば良い。幸い式典は半年後なのだろう?時間はまだ十二分にあるじゃないか」
諦める必要が何処にある。
言外に同然と語るスタンの瞳。
サーシャは唇を強く噛んで、「出来る、、、かな」とまた自嘲の笑み。
「少なくとも俺は、目的の遂行のみを是とする世界で生きていた。失敗した後の事など、考えた事もない」
またも当然と答えるので、サーシャは目を丸くする。
そうして次には「フフ」と吹き出した。
「可笑しな人ね。あなた本当にミアさんのお兄様なの?イジメていた当人にそれは間違ってないなんて、普通言わないわよ」
「兄だ。俺はそう思っている」
沈黙に静寂。
そこに幾つかの足音が響いてきた。
階段の方から、客が上ってきているようだった。
サーシャは「話し過ぎたわ」と涙を拭う。
「こんな顔じゃ帰れないし、少しお花を摘んでくるわね」
それにスタンは眉を寄せる。
「花など何処にある?一階か?」
問われてサーシャは目を丸くする。
「本気で言ってるの?」
スタンは首を傾げた。
サーシャは呆れ、笑ってしまう。
「ごめんなさい。あなた、色んな事に詳しいのに、常識は知らない事もあるのね」
「なに?」
「良い?乙女はお手洗いの事をそう言うの。覚えておきなさい」
この階に備えられたトイレを指差し笑んで言うので、スタンは「なるほど。覚えておく」と頷いた。
堪えた笑いを溢しながらそこへ向かうサーシャを見送り、スタンはトイレの側の壁に凭れて待つ事にした。
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