第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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「確かに、誉められた行為ではない。ミアに危害を加えるなら、今後俺はお前の敵にもなり得るだろう。だが、自身の夢の為に必死に構築した手順を俺は笑わない」 続けたスタンに、サーシャは悲痛の表情から色を取り戻していく。 「俺には夢という物が無いから、お前の気持ちも、努力というプロセスも理解には及ばない。けれど、叶えたい夢の為に手段を選ばないという"欲"は理解できる」 「、、、スタン」 「ひたむきに正道で努力するというのは、誰もが出来る事じゃない」 スタンはふと、昔を思い出す。 過るのは、自身を「親友」と呼び続けた頭のイカれた同僚だった。 「邪道で良いじゃないか。誰が蔑もうと、それも間違いなく努力だ。だからーー」 瞬間に微笑んだスタンの顔を、サーシャは強く脳裏に焼き付けてしまう。 「ーーお前は間違っていない。失敗したのは、俺という障害が発生したからだ。ミアの排除は既に不可能だ。ならば、別の努力をまた模索すれば良い。幸い式典は半年後なのだろう?時間はまだ十二分にあるじゃないか」 諦める必要が何処にある。 言外に同然と語るスタンの瞳。 サーシャは唇を強く噛んで、「出来る、、、かな」とまた自嘲の笑み。 「少なくとも俺は、目的の遂行のみを是とする世界で生きていた。失敗した後の事など、考えた事もない」 またも当然と答えるので、サーシャは目を丸くする。 そうして次には「フフ」と吹き出した。 「可笑しな人ね。あなた本当にミアさんのお兄様なの?イジメていた当人にそれは間違ってないなんて、普通言わないわよ」 「兄だ。俺はそう思っている」 沈黙に静寂。 そこに幾つかの足音が響いてきた。 階段の方から、客が上ってきているようだった。 サーシャは「話し過ぎたわ」と涙を拭う。 「こんな顔じゃ帰れないし、少しお花を摘んでくるわね」 それにスタンは眉を寄せる。 「花など何処にある?一階か?」 問われてサーシャは目を丸くする。 「本気で言ってるの?」 スタンは首を傾げた。 サーシャは呆れ、笑ってしまう。 「ごめんなさい。あなた、色んな事に詳しいのに、常識は知らない事もあるのね」 「なに?」 「良い?乙女はお手洗いの事をそう言うの。覚えておきなさい」 この階に備えられたトイレを指差し笑んで言うので、スタンは「なるほど。覚えておく」と頷いた。 堪えた笑いを溢しながらそこへ向かうサーシャを見送り、スタンはトイレの側の壁に凭れて待つ事にした。
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