第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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少し待っているだけで人気が増えてきた。 時間帯によっては混雑もしてくるらしい。 子供を連れた家族の姿も見受けられる。 スタンは何の気なしにそれを見つめていた。 両手を父親と母親に繋がれた男の子は、展示物には目もくれず父母との時間を楽しんでいるように思えた。 スタンには両親の記憶がない。 「一つ違っていたらーー」 ふと、サーシャの言葉を思い出した。 スタンは小さく笑ってそこから視線を外す。 旅行者も多いようだと気付く。 中には大きなキャリーケースを引く若者の姿もある。 その一人が、スタンの前を通り過ぎてトイレへと入っていった。 旅行者も多いのならば、北区なんて場所に建てなければ、もう少し客も増えたのではないかとも思った。 しかし、と。 「遅いな」 女の事情は良く分からないが、ここまで長いものなのかと思考する。 チラッとトイレの方を見やれば、先程の大きなキャリーケースを引く若者の方が先に出てきた。 スタンは「おい」とその若者を呼び止める。 若者の女は「え?」と立ち止まってスタンへと振り向く。 スタンの視線はキャリーケースへと向いていた。 「その魔術式は疎かではないか?」 「、、、えっと?」 「軽量化の術式だ。半端なものなら良いかもしれないが、重量物を収納した場合上手く機能していない」 突然のそれに、「あぁ」と女は笑う。 「一人旅ですし、この程度で問題ないんですよ」 「そういうものか」 「えぇ」 頷いて「では」と行こうとする女に、スタンは「それならば」と一方的に続けた。 「"入った時より重くなっている"のは何故だ?」 「ーーえ?」 「トイレに入って軽くなるのならば、ゴミ箱に何かを捨てたりもするだろうから分かる。だが、"重くなる"のは不自然だ」 「、、、気のせいじゃありませんか?別に重くなってはーー」 「音で分かる。明らかに"人間一人分程度の重さ"が増えている」 女の顔には、明らかな動揺が見てとれた。 「一体トイレで何をいれた?」 問い掛けに答えない。 沈黙の中、「何をしているの?」と声がした。 目を向ければ、トイレからサーシャが出てきた所であった。 サーシャはスタンと女を交互に見て、呆れたようにスタンのそばへと進む。 「あまり一般の人に迷惑をかけないで。ほら、行くわよ」 言葉にしかし、スタンは「なるほど」と言った。 「そういう事か。俺に対して、それは悪手だ」 次の瞬間だった。
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