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スタンのそばに立つサーシャは懐からナイフを取り出して即座に振り返る。
だが、そこにスタンは居なかった。
視線を踊らせれば、キャリーケースを失った女がそこに立っていて、その向こう側、離れた場所にスタンがキャリーケースを抱えて立っていた。
「え?」と女はキャリーケースを失った己の手を見つめ、慌ててスタンへと振り返る。
「ぜんっぜん見えなかったんだけど!?」
驚愕する女に、サーシャは「死んでも離すなっつったろ!」と言う。
スタンは冷静に二人を見つめ、「半端な術式の物を使うからだ」と呆れる。
「完璧なものならば、少なくとも音ではバレなかっただろうな」
そう言うスタンに、二人は構える。
「取り返す?」
女にサーシャは「当たり前だ」と答える。
「あのケースいくらしたと思ってんだ?」
聞いてスタンはキャリーケースへ視線を落とす。
そうして、「なるほど」と頷いた。
「防護術式か。軽量化が半端になる訳だ」
「そうそう!あんたが何をしても開かない!開けられるのは持ち主であるこっちだけだ!」
サーシャのそれに「問題ない」とスタン。
そうして周囲を見れば、人が少し集まってきていた。
「戦闘は避けるべきか」
「逃がす訳ねぇだろ!」
サーシャが駆け出そうとした時、「既に種は蒔いておいた」とスタンが言う。
「『夜遊び』」
スタンが唱えれば、二人の影が突如として膨らむ。
驚いて振り向けば、二人だけでなく、周囲の全ての人間の影が風船よろしく膨張していた。
次にはパンと弾ける。
色とりどりの紙吹雪が舞っていた。
「綺麗!」と家族連れの少年がはしゃぐ。
二人はハッとしてスタンへと振り向く。
しかしそこには、既にスタンの姿は無かった。
「くそ!やられた!」とサーシャ。
もう一人の女は、「あららぁ」と苦笑いをする。
「折角ボスが魔道具で未来予知してくれたのに、手ぶらで帰ったら殺されちゃうよ」
言って女は、サーシャに「逃げる?」と続けた。
「逃げたらそれこそ地の果てまで追い掛けられるだけだ」
サーシャは頭を抱え、舌打ちをする。
「だから護衛を殺して浚った方が良いっつったんだ。幸いケースにはマーキングをしてあるから位置は分かる。死にたくなかったら追うぞ」
走り出すサーシャに、女は「はいよー」と能天気な声をあげて着いていった。
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