第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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スタンのそばに立つサーシャは懐からナイフを取り出して即座に振り返る。 だが、そこにスタンは居なかった。 視線を踊らせれば、キャリーケースを失った女がそこに立っていて、その向こう側、離れた場所にスタンがキャリーケースを抱えて立っていた。 「え?」と女はキャリーケースを失った己の手を見つめ、慌ててスタンへと振り返る。 「ぜんっぜん見えなかったんだけど!?」 驚愕する女に、サーシャは「死んでも離すなっつったろ!」と言う。 スタンは冷静に二人を見つめ、「半端な術式の物を使うからだ」と呆れる。 「完璧なものならば、少なくとも音ではバレなかっただろうな」 そう言うスタンに、二人は構える。 「取り返す?」 女にサーシャは「当たり前だ」と答える。 「あのケースいくらしたと思ってんだ?」 聞いてスタンはキャリーケースへ視線を落とす。 そうして、「なるほど」と頷いた。 「防護術式か。軽量化が半端になる訳だ」 「そうそう!あんたが何をしても開かない!開けられるのは持ち主であるこっちだけだ!」 サーシャのそれに「問題ない」とスタン。 そうして周囲を見れば、人が少し集まってきていた。 「戦闘は避けるべきか」 「逃がす訳ねぇだろ!」 サーシャが駆け出そうとした時、「既に種は蒔いておいた」とスタンが言う。 「『夜遊び(ナイター)』」 スタンが唱えれば、二人の影が突如として膨らむ。 驚いて振り向けば、二人だけでなく、周囲の全ての人間の影が風船よろしく膨張していた。 次にはパンと弾ける。 色とりどりの紙吹雪が舞っていた。 「綺麗!」と家族連れの少年がはしゃぐ。 二人はハッとしてスタンへと振り向く。 しかしそこには、既にスタンの姿は無かった。 「くそ!やられた!」とサーシャ。 もう一人の女は、「あららぁ」と苦笑いをする。 「折角ボスが魔道具で未来予知してくれたのに、手ぶらで帰ったら殺されちゃうよ」 言って女は、サーシャに「逃げる?」と続けた。 「逃げたらそれこそ地の果てまで追い掛けられるだけだ」 サーシャは頭を抱え、舌打ちをする。 「だから護衛を殺して浚った方が良いっつったんだ。幸いケースにはマーキングをしてあるから位置は分かる。死にたくなかったら追うぞ」 走り出すサーシャに、女は「はいよー」と能天気な声をあげて着いていった。
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