第2章ーわがまま淑女に御用心ー

49/62

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
飛翔を続けるスタンは、速度を緩めていた。 安易に殺しを選んだ。 なれど、普通に戦っては他に被害が出た可能性もある。 アイズもその選択をなるべく選ばない方向を示唆はしても、絶対的であるとはしていなかった。 つまり、間違いではないはず。 正答に辿り着く事は叶わず、渋い顔になる。 「スタン。ありがとう」 唐突にサーシャから礼を言われ、「ん?」とスタンは視線を落とした。 「私、何度か誘拐された事があるの」 「、、、ほう。それで直ぐに察したのか」 「そうね。経験上、途中で記憶がなかったら大抵はそうだったから」 「身代金目的か?」 「たぶんそうだと思うけれど、実際は知らないわ。お父様が教えてくださらないから」 「そうか」 「だからあなたのような護衛を雇っているの」 「理解は出来る。ダダンがマイロには味方も敵も多いと言っていた。商売柄仕方ない事だとも」 サーシャは頷く。 「成り上がりで伯爵になった父を認めない貴族も多いから」 スタンはマイロが「最強を目指す」というスタンの条件に飛び付いた理由に合点がいく。 抑止力。 国でトップクラスの実力者ほど、その力は絶大となる。 「子供の頃に誘拐された時、死ぬんだと思ったわ。顔も知らない大人に囲まれて、怖くて、どうしようもなかった」 話を続けるサーシャに、スタンは無言で前を向き待つ。 「その時に助けてくれたのが、ダダンとカリオンだった。幾人か別動隊も居たみたいだけれど、私の前に現れて、身を呈して救いだしてくれたのが、その二人だったの」 「、、、そうか」 「二人は私にとって、ヒーローなの。いつでも助けてくれる。いつでも味方でいてくれる。何があっても変わらない。私の大切な人達よ」 サーシャの目が唐突に曇る。 「だから、二人が昔奴隷だったと聞いて、私は憤ったわ。こんな素敵な二人が、どうしてそんな目にあわなければならないの、と」 「それがお前の夢の起源か」 サーシャは頷く。 そうして今度は、微笑んだ。 その微笑みは慈愛に満ちており、スタンは初めて見るサーシャの笑みに、少しばかり動揺した。 「あなた"も"、助けてくれたのね」 「、、、仕事だ。当然の行為だ」 「それでも、助けてくれた。それなら私のヒーローよ。そんなヒーローの妹を傷付けた報いは受けなきゃいけないわ」 スタンは驚いて目を丸くする。 「先ずは、ちゃんと謝罪をするわ。敬意をもって、あなたの妹、ミアさんに謝る」 「本気か?」 「嘘は嫌いよ。って、言えた義理ではないけれど」 スタンも笑み、「そうか」と頷いた。 すると、中央区へ向けてサーシャは指を差した。 「そうと決まれば、あなたのお家に連れていって」 「、、、なに?今からか?」 「当然よ。決めたのならば即行動。アルバレスト家の家訓よ。ミアさんはもう帰ってる頃でしょう?直ぐに会って謝りたいの」 スタンの承諾などお構い無しに言うので、スタンは「まったく」と呆れる。 「我儘な女だ」 「女は少しくらい我儘な方が良いのよ?覚えておきなさい」とサーシャ。 あまりな物言いに、スタンは「何処が少しだ」と聞こえない程度に言った。 聞こえない程度に言ったつもりだが、サーシャから左手で頬を摘ままれてしまった。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加