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飛翔を続けるスタンは、速度を緩めていた。
安易に殺しを選んだ。
なれど、普通に戦っては他に被害が出た可能性もある。
アイズもその選択をなるべく選ばない方向を示唆はしても、絶対的であるとはしていなかった。
つまり、間違いではないはず。
正答に辿り着く事は叶わず、渋い顔になる。
「スタン。ありがとう」
唐突にサーシャから礼を言われ、「ん?」とスタンは視線を落とした。
「私、何度か誘拐された事があるの」
「、、、ほう。それで直ぐに察したのか」
「そうね。経験上、途中で記憶がなかったら大抵はそうだったから」
「身代金目的か?」
「たぶんそうだと思うけれど、実際は知らないわ。お父様が教えてくださらないから」
「そうか」
「だからあなたのような護衛を雇っているの」
「理解は出来る。ダダンがマイロには味方も敵も多いと言っていた。商売柄仕方ない事だとも」
サーシャは頷く。
「成り上がりで伯爵になった父を認めない貴族も多いから」
スタンはマイロが「最強を目指す」というスタンの条件に飛び付いた理由に合点がいく。
抑止力。
国でトップクラスの実力者ほど、その力は絶大となる。
「子供の頃に誘拐された時、死ぬんだと思ったわ。顔も知らない大人に囲まれて、怖くて、どうしようもなかった」
話を続けるサーシャに、スタンは無言で前を向き待つ。
「その時に助けてくれたのが、ダダンとカリオンだった。幾人か別動隊も居たみたいだけれど、私の前に現れて、身を呈して救いだしてくれたのが、その二人だったの」
「、、、そうか」
「二人は私にとって、ヒーローなの。いつでも助けてくれる。いつでも味方でいてくれる。何があっても変わらない。私の大切な人達よ」
サーシャの目が唐突に曇る。
「だから、二人が昔奴隷だったと聞いて、私は憤ったわ。こんな素敵な二人が、どうしてそんな目にあわなければならないの、と」
「それがお前の夢の起源か」
サーシャは頷く。
そうして今度は、微笑んだ。
その微笑みは慈愛に満ちており、スタンは初めて見るサーシャの笑みに、少しばかり動揺した。
「あなた"も"、助けてくれたのね」
「、、、仕事だ。当然の行為だ」
「それでも、助けてくれた。それなら私のヒーローよ。そんなヒーローの妹を傷付けた報いは受けなきゃいけないわ」
スタンは驚いて目を丸くする。
「先ずは、ちゃんと謝罪をするわ。敬意をもって、あなたの妹、ミアさんに謝る」
「本気か?」
「嘘は嫌いよ。って、言えた義理ではないけれど」
スタンも笑み、「そうか」と頷いた。
すると、中央区へ向けてサーシャは指を差した。
「そうと決まれば、あなたのお家に連れていって」
「、、、なに?今からか?」
「当然よ。決めたのならば即行動。アルバレスト家の家訓よ。ミアさんはもう帰ってる頃でしょう?直ぐに会って謝りたいの」
スタンの承諾などお構い無しに言うので、スタンは「まったく」と呆れる。
「我儘な女だ」
「女は少しくらい我儘な方が良いのよ?覚えておきなさい」とサーシャ。
あまりな物言いに、スタンは「何処が少しだ」と聞こえない程度に言った。
聞こえない程度に言ったつもりだが、サーシャから左手で頬を摘ままれてしまった。
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