第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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二人はスタンの家の庭先へと降りた。 サーシャは地面に降ろされると、静かに制服を整える。 「行きますわよ」 当たり前に玄関へと向かうので、スタンは呆れつつ後を追った。 玄関の前に立ち止まると、サーシャはスタンに視線で促す。 スタンは玄関の扉を開け、「ただいま」と一言言った。 すると、タタタと小走りの足音が聞こえ、奥から「お帰り!お兄ちゃん!」とミアが顔を出した。 ミアは焦る様子を打ち消すように近付くと小走りから歩きへと変じる。 「あのね!」と口を開いて、スタンの後ろに隠れているサーシャに気が付いた。 ミアは閉口し、沈黙が流れる。 少し暗い影を表情に落とすミア。 スタンは未だ己の後ろに隠れるサーシャに、先程の威勢はどうしたのだろうかと呆れた。 「ほら、言う事があるのだろう?」 スタンは保護者よろしくサーシャの自身の前へと押し出す。 サーシャは俯いていたが、「ミアさん。ごきげんよう」と声を上擦らせながら言った。 咳払いを一つ。 「え、、、と、あの、、、お話、をね?したくて、、、その」 奇妙なその様にスタンは眉を潜める。 しかしながら、ミアは唐突に微笑んだ。 「サーシャさん。いらっしゃい。ほら、上がって?」 言葉にサーシャはキョトンとしてミアを見つめる。 サーシャはスタンの言葉を思い出す。 「ーーミアは優しい」 脳裏を過ったそれは、サーシャに笑みを取り戻させた。 「はい。お言葉に甘えて、お邪魔致します」 綺麗なお辞儀をするサーシャ。 その瞬間にミアの目がスタンへと向いた。 ニコッと笑うミアに、スタンは目を丸くする。 そうしてゆっくりと、スタンも微笑みを返した。 ミアはサーシャを食卓へと案内した。 テーブルの椅子を引いて「座って」と言うミアにしかし、サーシャは立ったまま膝上に両手を揃えて立ち尽くす。 「こういうのは、最初にきちんとしておきたいから」 ミアは椅子を引く手を止めて、サーシャを見つめた。 「ミアさん」と改まって、サーシャはミアの名を呼ぶ。 「んん」と喉を鳴らし、緊張を圧し殺していた。 「許してほしい。なんて、烏滸がましい事は言いません。これまでの非礼、本当にごめんなさい」 深く頭を下げるサーシャにミアは驚いていた。 その瞳には刹那であるが、怒りの感情が見てとれた。 何かを言いかけ、逡巡してやめる。 その視線がスタンと交差した。 スタンはミアを暫し見つめて頷くと、何も言わずに部屋から出た。 扉が閉められる。 ミアは未だ頭を下げているサーシャを見下ろし、ゆっくりと口を開いた。
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