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言いたい事は山程あった。
無論、その殆どが悔しさと怒りのそれから生じたものだ。
しかしながら、今になって思えば、それらは全て馬鹿馬鹿しく思えた。
故に言える事は一つだけだ。
「今さら謝られても、何も思わないわ」
サーシャは少しずつ顔を上げる。
「原因も知らないし興味もない。もしかしたら知らない所であなたを傷付けたのかもと悩んだ事もあった。けれど、たぶんあなたはそんな理由で陰湿な選択をしないと思う」
ミアの瞳には、感情の色が欠落していた。
「そりゃ私だって人間だもの。ムカついたし悔しさもあった。あなたに対して汚い言葉を吐いた事も、覚えては無いけどあるかもしれない。でも、腹を立てて色々考えて、思ったの」
ミアはわざとらしく咳払いをして、サーシャを見つめ直す。
「どうだって良いのよ。全部過去の事だもの」
「どうでも良くは、、、ないわよ」
「勿論、何もかも切り離してってのは無理よ?でも、こうされたからやり返したいとか、どうにかしてやめさせようとか、逆に関わらないようにしようとか。色々考えすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃになって、その方がよっぽどストレスなのよね」
サーシャはそれに少しばかり困惑していた。
ミアはまるで、本当にどうでも良い事のように話していたからだ。
「だったら過去の事を考えるのは一旦やめて、これからの事に費やした方が良いでしょう?改めたというか、分かりやすくシンプルにいこうと思って」
「、、、それは?」
「善意には善意を、悪意には悪意を。やられたらやり返すけど、向こうが良い関係を築こうとするのなら、私はそれを受け入れようってね」
ミアは遂に笑む。
「今日、サーシャさんは私に普通に接してくれた。だから私も普通にした。今はちゃんとこうして善意を向けてきている。だから、私もあなたに善意で返す」
「、、、ミアさん」
「そんな事を言ってもイジメた過去が消えた訳じゃないから、勘違いはしないでほしい。許す許さないは私じゃなくて、自分で解決するものよ。ただ私自身は、あなたが善意を向けてくる限り、善意をもって応えるわ」
微笑みを続けるミアに、サーシャは視線を下げていた。
浅はかな己が恥ずかしいと思ったからだ。
謝罪という行為に、「許してほしい」とは言わないと宣った文言。
それは一重に、罪悪感を打ち消す為に行ったエゴだらけの行為である。
気付かされ、けれどもミアは、それすらもどうでも良く思っているのだろう。
他者を介入させるのではなく、自分自身で決着をつけろ。
そう言っているのだとサーシャにも分かった。
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