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スタンは部屋の外で、暫く立ち尽くしていた。
しかしながら、ここで待っているのも何だか妙だ。
廊下を歩き、階段の方へと向かう。
あとは二人に任せよう。
二人の問題なのだから、自分がこれ以上介入するのは違う気がした。
階段の一番下に腰掛けると、スタンの前に闇が浮かぶ。
そうしてそこに、コトッとキャリーケースが落ちた。
パカッと開いて中を観察した。
「仕掛けはないか」
今度は反対にして見る。
防護術式にリソースを割かれ、軽量化の術式が半端にしか機能していない。
つまりは、と。
「防護は後から付け加えられたものか」
何の為に、何の目的で。
使用用途はやはり、人を運搬する為。
スタンは右手でキャリーケースに触れ、静かに目を閉じる。
(術式を張り付けた人間は、半端な技術者だな。性格は短気、大雑把で、拘りを持たない。付与術の訓練期間は三年といった所か。熟練者ならばこんな他の術式を阻害するようなやり方はしないはずだ)
思考して、パタンとケースを閉じる。
(先程の誘拐には明らかな計画性があった。つまり、この術式を付与した人間とは関係ないか、単純に作戦の立案者が別に居る)
熟考していると、食卓の扉が開いた。
「お兄ちゃん?」とミアが顔を出す。
その後ろからサーシャも顔を覗かせた。
「何してるの?」
近づくミアに顔を上げ、「いや、何も」と返す。
なれど、ミアの視線はスタンの前に転がったキャリーケースへ。
「え、、、と。あ、旅行?」
僅かに動揺が見えたが、スタンにはそれが何か分からなかった。
「特にそんな予定はないな」
「え、じゃあ何でキャリーケースなんて?」
そこでスタンは消すのを失念していたと思い出す。
口を開こうとすれば、「それって」とミアの後ろから見ていたサーシャが口を開いた。
「うちのブランドじゃないかしら?」
スタンとミアは「ん?」と同時にサーシャを見る。
サーシャは近付き、キャリーケースの前にしゃがむ。
「ほら、やっぱり。うちの貴族向けの旅行用品ブランドよ」
「そうなんだ」とミアもサーシャの隣にしゃがむ。
スタンは「ほう」と目を細くした。
「サーシャの所って旅行用品も扱ってるの?」
「えぇ、色々と幅広くやってるから。お父様が貴族向けに手広くやってて、おじ様は庶民の方向けに商売をしているわ。『ブランディア』もおじ様が作ったお店よ」
「え!?そうなの!?」
驚くミアにサーシャは「えぇ」と頷きながら目をパチパチさせる。
「私あそこの服沢山持ってるよ!お洒落だよね!」
テンションを上げるミアにサーシャは「フフ、ありがとう」と笑む。
「今度また新作のお披露目会があるのだけれど、良かったらミアも来ない?」
「いいの!?」
「勿論」と微笑むサーシャ。
二人を見て、スタンは蟠りの解消を感じた。
何を話したかは知らないが、どうやら解決には至ったらしい。
瞬間に、サーシャが驚いた顔をした。
「、、、笑った」
唐突に言われ、「ん?」とスタンはサーシャを見る。
「あなた、ちゃんと笑えるじゃない。そっちの方が素敵よ?」
それに、「え?お兄ちゃんうちでは良く笑ってるよ?」とミア。
サーシャは「そうなの?」と少し不服そうな顔をした。
ミアはわざと勝ち誇ったような顔をして、「お兄ちゃんを笑わせる方法、教えてあげようか?」と言う。
「教えて!」
楽しそうに話す二人に、「おい、人を感情の乏しい人間みたいに言うな」と、半ば笑みを溢しつつ呆れた。
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