第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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どうしてだろうか。 男は暗い天井を見つめ、くだらない焦燥にも似た感情を圧し殺していた。 部下からの連絡が途絶え、恐らくは作戦の失敗を余儀なくされたのだろうと予測は出来た。 部下が逃げた可能性は考えなかった。 逃げ出せばどうなるのかは嫌と言う程に教え込んだ。 それは有り得ない。 ならば十中八九失敗し、殺されたと見るべきだ。 捕らえられたのであれば、何かしらアクションがあるはずだし、何より捕まるくらいなら死ねと教えている。 では、と。 殺されたとして、一体誰に? 疑問が幾度も反復される。 対象に属している護衛はダダンとカリオン。 無論別の誰かの時もあったが、ほとんどはその二人だ。 彼等は最大で見積もってもAランク程度の能力。 部下の二人が失敗し、痛手を負ったとしても何のアクションも無く殺されるなど有り得ない。 自分の知らぬ存在が居る。 新しく配属された護衛。 情報が欲しい。 兎に角、何でも良いから情報が。 溜め息を天井に向け吐けば、「頭ぁ!」と扉を勢い良く開ける存在があった。 男が疲れた顔を向ければ、息を切らせた己の部下がそこに立っていた。 「分かりました!」 「そうか。どんな野郎だ?」 「最近入った新人で、スタンって野郎らしいです」 「新人?あの馬鹿二人は新人にやられたのか?」 「、、、はい。でもその新人、かなりの大型ルーキーみたいです」 「他所からのSランクか?何処だ?スタンなんて名前聞いた事ねぇぞ?」 「いや、、、」 歯切れの悪いそれに苛立ち、「何だ?言え」と男は催促する。 「テストでミリアム相手に無傷で合格したとか、、、」 「【天剣】相手に無傷だと?誇張じゃねぇのか?」 「いや、確かな情報です」 男は舌打ちをして頭を掻く。 この国のSランクや軍に所属してる厄介な連中は全て頭に入れている。 帝国や公国もそうだ。 であるならば、小国からの流れ者か。 「いや、そのレベルなら無名のはずがねぇ」 男は座っていた椅子から立ち上がる。 ふと、嫌な想像が頭を過った。 しかしそれは即座に否定する。 そんなはずがないから。 あの現場を見て、あの惨状を知って、生き残れる存在があるとは到底思えない。 男は深く息を吐く。 兎に角、危険は冒せない。 「作戦を変える」と男は部下を見る。 「"依頼"は数時間拘束すりゃあ解決出来る。スタンって野郎は避けていくぞ」 男はそう言って、次に下卑た笑みを"そいつ"へ向ける。 「良い隠れ蓑になってくれよぉ?ピピン」 視線の先には、ボロボロの衣服に体中傷だらけで涙を流し、椅子に縛り付けられたピピンの姿があった。 「ミミズク。どうして、、、?」 ピピンのそれに、ミミズクと呼ばれた男は下卑たその笑みを向けるだけだった。
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