第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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サーシャの護衛は翌日から最低二人体制となり、毎日のほとんどの時間を護衛ありきで生活する事となった。 マイロも誘拐未遂を知って焦りはしたものの、掠り傷も負わせず無事にサーシャを守ったスタンを高く評価した。 マイロの協力もあり、キャリーケースの購入者を絞り込もうとはしたものの、結局森の中で木の葉を探すようなものであった。 直近の購入者でもかなりの数となり、絞り込みは難航して四日が経過していた。 しかしながらその間、サーシャの周囲では異変と呼べるものは何もなかった。 作戦の失敗から敵が手を引いたのか。 はたまた時期を見定めているだけなのか。 判断も定まらないまま、時間だけが無情に経過していった。 「あれからもう五日だ」 マイロは会長室の自身の椅子に腰掛けて、疲れた顔をしていた。 机を挟んで向かいのローテーブルに書類を散らし、ソファに腰掛けているダダンも唸る。 「何の動きもみられないのは流石に焦れったく感じますね」 数日まともに眠れていないのか、ダダンは目の下に隈を作っている。 それはマイロも同様だった。 「どう見る?」 マイロの問いに、ダダンは腕組みをして眉を寄せる。 「恐らくは時期を見ているのかと。兄貴にも相談してみたんですが、わざと動きを見せず、こちらが疲弊するのを待っているんじゃねぇかって」 「確かに。私達は疲れているな、、、」 「まぁ、お嬢の事ですからね。根性で取っ捕まえてやりますよ」 マイロは笑って、「頼もしいねぇ」と言う。 「しかし、サーシャもこう長時間護衛をつけられたら、ストレスもあるだろうね。君達やスタンくんならまだ安心も出来るんだろうが」 「流石に一日中となると難しいですからね。手の空いてる人間を片っ端からつけてるんで、最近ちょくちょく嫌味を言われます」 ダダンが言うと、マイロもニヤッとして「そうだろうね」と返した。 「でもスタンくんは一日の殆どを護衛として過ごしてくれてるみたいだね」 「まぁ、そこまでしなくてもって話はしたんですが、お嬢の精神面のケアもしてくれてるみたいで。助かってます」 ダダンは言って、「そのお陰で俺もキャリーケースの追跡捜査が出来るんですがね」と書類へ視線を落として溜め息を吐いた。 スタンのお陰でやれているこの捜査も、結局進展はない。 申し訳なさで悔しさだけが溢れていた。 マイロも自身の机に広げられた書類を疲弊した顔で見つめていたが、「そういえば」と沈黙を崩す。 「今日からカリオンくんは復帰するそうだね」 「えぇ、病み上がりなんで俺が一緒につこうとしたんですが、お前は休んでろって怒られました」 二人は含み笑いを溢す。 「スタンも今日ばかりは妹と過ごせってあしらわれて、少しシュンとしながら、嬉しそうにしてました」 「そうか。妹さんと、家族を大事にしているんだね。彼は」 「えぇ、まだ子供ですが、しっかりしてますよ。あいつは」 フフと二人笑いあって、マイロの後ろの窓の外を見る。 「もうじきカリオンが、お嬢の迎えに行っている頃ですね」 外の夕日は、綺麗に赤く染まっていた。
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