第2章ーわがまま淑女に御用心ー

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スタンと別れたカリオン達は、サーシャと共に馬車で帰路を辿っていた。 「カリオン。腕の調子はどう?」 カリオンと向かい合って座るサーシャが、窓の外を眺めていた視線をカリオンへやって尋ねた。 「心配ない。もう全快した」 わざと両腕を上げる姿に、サーシャは嬉しそうな笑みを返す。 「お休み中は何をしていたの?」 「訓練をしたらダダンに怒られるのでな。日がな一日ゴロゴロしていた」 「あら」とサーシャは大袈裟に口を手で隠す。 「それなら鈍っているんじゃなくて?」 「それも心配ない。隠れて訓練をしていた」 カリオンは人差し指を立てて、「ダダンには秘密だぞ?」と言う。 サーシャは笑んで、「言わずにいられるかしら?私」と視線を逸らす。 「おいおい、勘弁してくれ」 「話してしまうあなたが悪いわ」 茶化して言うので、カリオンは苦笑いをした。 「隠したら怒るだろう?」 「当たり前じゃない。私に隠し事をしたら絶対許さないわ」 カリオンは「まったく」と呆れながら、鼻を鳴らして笑ってしまう。 「何だか、懐かしく感じてしまうな」 「本当ね。ずっと一緒に居たからかしらね?」 「そうかもな」とカリオン。 「またこれからも宜しくね?」 「あぁ、勿論だ」 二人はゆっくりと窓の外を見る。 街並みの景色が流れていく。 サーシャは優雅に飛行して登校する事を気に入っていたが、こういうものも悪くはないなと思った。 馬車が大きく揺れる。 悪路に入ったようだ。 ガタガタと揺れる馬車。 二人は黙って流れる景色を見ていた。 街並みは"いつも"のように、薄汚い様相を映している。 痩せ細った肢体を布でくるみ、家の壁に背を預け座る者。 その隣で寝転がり、生きているかも定かでない者。 薄暗い路地に佇み、道行く人間に声をかける裸同然の格好をした女。 威張り散らすように周囲を睨み付け、大股で往来を行く男。 「本当、"北区"は変わらないわね」 サーシャは物憂げな視線を窓の外へ向けながら、何の気なしにそう言った。 カリオンも「そうだな」と頷く。 「"いつも通る道"とはいえ、護衛しにくいこの街は嫌いだ」 言いながら、己の発言に妙な違和感を覚える。 己は今、何と言ったか。 馬車の速度が上がり、揺れが少し激しくなった。 カリオンは自身の思考をいぶかしむ。 おかしい。 何かが妙だ。 けれども、その何かが分からない。 奇っ怪な思考に疑問を何度も投げつけて、次第に気付き始める。 「カリオン?」 サーシャがカリオンの異変に気が付く。 汗を大量に流し始めている。 「お嬢、、、不味い事になったかもしれん」 サーシャが「え?」と首を捻ると同時、カリオンは背にしている馬車の壁をドンと叩き、「エディ!止まれ!」と叫んだ。
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