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男は残念そうにだが、カラカラと笑って「そりゃそうか」と項垂れた。
「護衛だもんなぁ。素晴らしい忠義だ。俺の部下にもお前みたいなのが欲しいよ。いや本当」
言いながら、己の足下に転がる馬車へと視線を落とした。
「いやしかし、野郎の作る魔道具は恐ろしいもんだ。人の思想や意識を改変するんだそうだ。そんなもんを簡単に作って使えだと。ふざけた野郎だぜ」
その目をカリオンへと戻して、「違和感に気付くてめぇも大したもんだがな」とにやける。
男の目の冷たさに、サーシャは身震いを強くしていく。
それを押さえるように、カリオンは右手の力を強くしてサーシャを抱き締めた。
「お前は何者だ?」
カリオンの問い掛けに、男は眉を潜める。
「聞いてどうする?どうせてめぇは死ぬ運命だぜ?」
「戯れ言を。名も名乗らない外道に殺されるつもりはない」
男はまた下卑た笑みを浮かべ、「ミミズクだ」と答えた。
カリオンは目を大きく開く。
「虚言か。生きているはずがない」
「俺の死体を見た奴でもいるのか?」
「、、、居ない。だが、あのオウギですら死んだと聞いている」
「長老だろ?勝手に暴れて死んだんだ。俺は一人で逃げさせてもらったのさ」
「包囲網は生半可ではなかったはずだ」
ミミズクと名乗った男はニヤッと笑む。
「死体はあがってねぇ。それが証拠だ」
疑心。
カリオンは疑うも、一抹に残る不安。
もしもそれが事実であれば、聞き及ぶ限り己に勝ち目は皆無だ。
否、片腕の己にはどのみちこのミミズクを名乗る男に勝てる保証はない。
ならばとカリオンはサーシャの耳にそっと口を近付ける。
「合図をしたら逃げろ。振り向くな。時間は稼ぐ」
サーシャは目を大きく開いて口を開くも、声が出ない。
カリオンの負傷とミミズクの殺意から、ショック状態に陥っていた。
だがしかし、その目は拒絶を映している。
「頼む。守りきれない」
真実を吐くカリオンの目は、悔しさを語っていた。
頼むから全て夢であってほしい。
困惑の中で、現実逃避をしたがる思考がサーシャの脳を彩る。
なれど、カリオンは有無を言わせなかった。
サーシャを突如として突飛ばし、「走れ!」と己はミミズクへ向けて立ち上がる。
サーシャは反射的に立ち上がった。
そうしなければ、カリオンの覚悟に報いる事が出来ないと思ったから。
刹那の思考でそう判断せざるを得なかったから。
頭の中では、何度も謝罪の文言が浮かんでいた。
ーーごめんなさい。
ーーごめんなさい。
死を覚悟してなお立ち向かう横顔を、視界の端に振り切ろうとした時だった。
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