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無情の結末は呆気なく訪れる。
視界から消えたはずのカリオンの横顔が、即座に戻ってくる。
走り出したはずのサーシャを追い越し、ドシャと地面に転がる。
その胸には、剣が突き立てられていた。
理解不能。
サーシャは走り出したはずの足を縺れさせ、倒れたカリオンのそばに両の膝を落とす。
「馬鹿だなぁ」
後ろから残念そうな声と、歩みを進めてくる足音。
「往来なら殺さねぇとでも思ったのか?ここは北区だぜ?殺しなんざ日常茶飯事。誰も一々気にしちゃいねぇさ」
そう言いながら、ミミズクは絶望を映すサーシャの眼前でカリオンの胸から剣を引き抜く。
サーシャはしかし、ミミズクを見ていなかった。
物言わず横たわる己の護衛。
幼少より守ってきてくれた己の英雄。
その最後の姿に、悲しみだけが込み上げていた。
「ーーァァ!!」
声にならぬ叫びをあげて、サーシャは動かないカリオンにしがみつく。
嫌だ。
やめてくれ。
連れていくな。
幾度も共にあった記憶が、慟哭となってサーシャを支配する。
涙も止まらぬままに、血で染まるカリオンの服を両手で掴む。
次には首筋に衝撃が走った。
視界は暗転。
精神崩壊を起こしたサーシャは、容易く気絶していた。
「仲間が死んだくらいで喚くなクソ女。耳障りだ」
ミミズクは脱力したサーシャの服を掴み、乱暴に担ごうとする。
だが、サーシャの手はカリオンの服を掴んだまま離さなかった。
舌打ちをして、何度かサーシャごと振ると漸く離れる。
「クソ。もう二度とこんな仕事したくねぇな」
ミミズクはカリオンに背を向け、サーシャを担いで歩き出した。
「盗みの方が何倍も楽だ」
悪態を吐き捨てると、軽く跳躍して消えた。
数秒して、はたとカリオンは目を開く。
胸に手を当てる。
血が吹き出してくる。
(死ぬか。流石に、、、無理だな)
軽く笑みを溢し、次には真面目な顔付きに戻る。
血塗れとなった右手を動かし、頭に当てた。
ダダンの顔が浮かんだが、己の命の時間的に念話が可能なのは一人くらいだ。
そして、サーシャが誘拐されたとあっては時間も惜しい。
ならばと浮かぶのは、新人でありながら新人らしからぬ男の顔であった。
「ーースタン」
言葉をかければ、直ぐに『どうした?』と返事。
「すまない。本当にすまない」
『何かあったのか?』
「お嬢が、、、誘拐された」
声音は、悔しさで満たされていた。
『、、、分かった。直ぐに捜索する。敵の特徴は?答えられるか?』
カリオンはスタンの理解の早さに笑む。
「ミミズクと名乗る黒装束の男だ」
暫しの沈黙を経て、『承知した』と返答。
即座に念話は途切れた。
それだけで何かを察したスタンにしかし、不安は無かった。
これで良いのだと、不可思議にも晴れやかな心持ちがあった。
そうして、馬車の近くに転がったエディの顔へ視線を向ける。
「すまん。全て俺のせいだ」
言葉を吐き捨てながら、カリオンは静かに目を閉じた。
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