第3章ー死に花は咲かずともー

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ミミズクは焦りを見せていた。 人員と逃げる準備を始めてものの数分だ。 切っ掛けは単純。 その数分前に連絡をとったはずの部下と、『念話』が通じなくなった。 警備隊はまだ動いていないはずだ。 何処かで行為が露見したかと思考する。 カリオンを殺したのが北区とはいえ、往来だ。 何処かの馬鹿が通報した可能性はある。 あるがしかしと否定。 警備隊のやり方ではない。 突入、包囲。 そんな準備も時間もない。 加えて隠密で動く輩の存在。 そんな真似、警備隊は絶対にやらない。 ならば『グリムソード』の連中かと。 可能性としてはそれが現実的だ。 どのみち、露見したのであれば時間がない。 ミミズクは大急ぎで鞄に荷物を詰めると、部屋を出て通路を進む。 万一外を包囲されている場合を想定して、階段を地下へと向かう。 北区の地下に広がる戦争時代に使っていた避難路の迷宮。 そこに入れば確実に逃げられる。 最下層まで降りて扉を開ければ、だだっ広い空間に出た。 石壁のそれは、四方に通路が伸びていた。 その一つへ向かおうとした時、ミミズクの足が止まる。 誰か居る。 暗がりの向こうに、ボウと明かりが灯る。 それは幾つも空に浮く炎で、空間全てに広がりそこを照らした。 「おいおい、、、マジかよ」 ミミズクは冷や汗を流してそいつを見つめた。 鞄を落とし、腰の剣を抜く。 見つめる先には、金髪に空色の瞳を向ける黒服の男。 スタンだ。 「俺の部下を殺ったのはてめぇか?」 ミミズクの問い掛けにスタンは「そうだ」と頷く。 「お前がミミズクか?」 今度はスタンが問う。 ミミズクは笑む。 「そうだ。名を知っても挑むたぁ豪胆な野郎だな?」 肯定のそれに、スタンは溜め息を溢した。 「気配が違ったからまさかとは思ったが、そうか、偽者か」 「あぁ?」 威圧的な眼差しを向けるミミズクだが、スタンはつまらなそうな目を向けて返すだけだ。 「そもそもあいつは己をその名で呼ばない。ともすれば、騙るとも違うか」 「何言ってんだ?てめぇ」 「いや、こちらの話だ」とスタンは続ける。 「暗殺でも良かったんだが、少々イラついたものでな。死を味わってもらう事にした」 スタンの瞳が突如として冷たいものに変わる。 瞬間にミミズクは構えていた。 額から瞼へ、そして目の横を伝う汗に気が付き驚く。 冷や汗を流した。 (俺が、今、こいつに恐怖した?) 久しく感じ得なかった殺意。 重苦しいそれに、ミミズクは笑みを浮かべた。
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