第3章ー死に花は咲かずともー

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殺す側と殺される側。 どちらとしても、己が長らく身を置いてきた世界だ。 幾多の死線を潜り抜け、その剣技を以て相対する者を斬り伏せてきた。 その根拠のある自信が、ミミズクの剣を握る手に力を与える。 伊達で名を借りている訳ではない。 己の剣を見た者が、伝説の暗殺者ではと吹聴を始めたから、乗っかったまでだ。 「殺すっつうなら、やってみろよ!!」 一歩の跳躍は凄まじく、石で出来た地面を陥没させる程だった。 速度は秒にも満たない刹那の中で、スタンとの距離を無にしてしまう程。 だが、次の瞬間には弾き飛ばされ壁に激突していた。 壁は大きく陥没し亀裂を生み、「カハッ!」とミミズクの息を止める。 なれど、地面に落ちる瞬間には着地して、剣を杖がわりに倒れまいとした。 理解に及ばず、だがミミズクは見た。 己が振り下ろす剣の腹を左手で軽く払い、そのまま顔面に掌底を浴びせられた。 睨むミミズクだが、スタンの目は冷ややかであった。 「何だ?その程度であいつの呼び名を使っていたのか?」 スタンにとってはどうでも良い事で、この男が手を抜いたのではと思ったから言ったまでだった。 だが、ミミズクにとっては最大の侮辱だった。 「ふざけんな!俺は【剣帝】にも一太刀入れた男だぞ!!剣で負けるなんざ有り得ねぇんだよ!!」 「誰だそれは?」とスタンは首を捻るが、はたと出会った頃にアイズが言っていた人物を思い出す。 「あぁ、そいつの剣は知らないが、お前に一撃もらう程度なら知れてるな」 ブチッとミミズクの頭の中で糸が切れる音がした。 瞬間にミミズクの足下に赤い魔法陣が出現。 「俺はミミズクだ。今からてめぇをぶっ殺してやる」 スタンは落ち着いた様子で「ふむ」とミミズクを見ている。 「別にお前の名などどうでも良いが、そこまでしてあいつの呼び名を使うのなら、証明してみせろ」 言うと、右手を前に出す。 「お前が俺に教えた剣技だ。一撃くらいは防げるだろう?」 高まる魔力に、ミミズクは目を大きく開いた。 感じなかったはずのそれ、まるでわざとそうしたかのように、ほんの一瞬だけ感知させる。 測定など疾うに不可能であると語るその魔力量は、即座にスタンの右手へと凝縮された。 「二流(にりゅう)ーー『鬼閃(きせん)』」 黄色く輝く刀。 鞘も存在せず、バチバチと周囲に電流を走らせている。 内包した魔力は知り得ない。 既にスタンからは、何の魔力も感じなくなっていたからだ。 「行くぞ」 スタンの視線でミミズクは即座に構える。 その時には、スタンは既に己の左側に立っていた。 「そうか。やはり無理か」 吐き捨てながら、背を向け歩き始める。 それと同時にあがるのは血飛沫だった。 ミミズクの右腹部から左肩にかけて一線。 次には凄絶な音を奏でて背後の壁に大きな電流と斬撃。 それは巨大な焦げ跡を残して、壁を僅か斜めにずれさせた。
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