第3章ー死に花は咲かずともー

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暗い部屋の中で、サーシャは孤独を感じていた。 スタンが消えてから数分は経っただろうか。 永遠にも永く感じる。 怯え震える体はしかし、またも唐突に目の前に現れた存在に安堵を覚える。 「すまん。待たせたな」 スタンは床に座っているサーシャの背に優しく触れ、軽く擦ってやる。 気付けば、震えは消えていた。 「、、、スタン。あいつは?」 「証拠は無いが、殺してきた。もうお前を怖がらせるものはない」 当然と言うスタンに、「そう」とサーシャ。 「あなたが言うのなら、本当なのでしょうね」 言うも、座り込んだまま動けないサーシャ。 スタンは思案し、仕方なしとサーシャを抱えた。 「ちょっと!?」 驚くサーシャにしかし、スタンは平然としている。 「汚れてるのよ」 「知ってる。問題ない」 「私が嫌よ」 「我慢しろ。もうじき警備隊が来る。厄介事は御免だ」 有無を言わせないスタンに、サーシャは視線を逸らした。 その時、スタンの脳内に声が響く。 『スタン。到着した。中の状況は?』 「アイズか。制圧は済ませてある。ただ、お嬢様が憔悴している」 『分かった。連れて出ろ。後はこちらで処理する。例の彼は中央区にある軍管轄の病院に搬送してある』 「助かる。では、先ずそちらに向かう」 『私の名を言えば入れるようにしてある』 「分かった」 アイズからの念話を切断しようとすると、『スタン』とアイズから呼ばれる。 「何だ?」 『"良くやった"』 唐突なそれにスタンは面食らってしまう。 ふと脳裏を過るのは、嘗ての長老の顔であった。 初任務を終えて帰還したスタンに、一言だけそう言った。 思えば、彼が己を褒めてくれたのはその一度きりであった。 フッと笑みを溢すと、沈黙を妙に思ったのか『どうした?』とアイズの声がした。 「いや、、、少し昔を思い出しただけだ。褒められるというものは、、、悪くないな」 言葉に脳内のアイズの声も笑う。 『私は褒めて伸ばすタイプの人間だ。これから嫌というほど褒めてやるから、覚悟しろ』 「おいおい。慣れていないんだ。ほどほどにしてくれ」 返しながら笑みを浮かべるスタンに、サーシャは困惑していた。 それに気が付いたのか、スタンは直ぐに笑みを消す。 そうして、「行くぞ。あいつが待っている」と動き出した。
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