第3章ー死に花は咲かずともー

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眼下の街は灯りに包まれていた。 街灯や家々の灯りが暗闇の空を照らすように明るい。 細やかな風を感じるも、地肌にベタつく濡れた服に不快感を覚えられる程には、サーシャの心持ちは回復していた。 病院が見えてきた。 高度を下げていくスタンに、そこが目的地なのだとサーシャは理解する。 「スタン」と名を呼ばれ、スタンはサーシャへ視線をやる。 「どうした?何処か痛むか?」 「、、、いえ、そうじゃなくて、服を着替えたいの。こんな汚れた服で病院に入るのは宜しくないわ」 スタンは病院の前に着地しながら、どうするかと考える。 「流石に着替えは用意していない。俺の物であれば持ち合わせてあるが、、、」 「それで構わないわ。貸してちょうだい」 サーシャは地面に下ろされ、自分の足で地に立つと微笑んでそう言う。 その様子にスタンは「分かった」と頷いた。 空間に闇が浮かぶとそこへ右手を突っ込む。 そこから黒いシャツと黒いズボンを取り出すと、サーシャへ渡した。 受け取るとサーシャは歩き出す。 病院の前に立つ騎士にアイズの名を伝えるとすんなり通してくれた。 中へ入ると、サーシャは「着替えてくるわね」と歩を進めていく。 その背を眺めながら、スタンは少し心配そうな目をしていた。 あんな事態があって、まだ心身共に疲弊しているはずだ。 なれど、サーシャは己の為に負傷したカリオンに会う手前を取り繕い、強くあろうとしている。 それは何故だろうかと、疑問を抱く。 ふと、歩み行くサーシャが立ち止まりこちらへ振り向いた。 「スタン。言い忘れていたわ」 スタンは首を傾げる。 微笑むサーシャは、「助けてくれてありがとう。私の英雄(ヒーロー)さん」と言った。 スタンは気恥ずかしさを覚え、それに「仕事だ。当然だろう」と返した。 サーシャがその場を後にすると、暫し院内の静寂がスタンを包んでいた。 「何だよ。着いたんなら連絡くらいしろ」 声に目を向ければ、エントランスの奥からダダンが向かってきていた。 「すまん」 ダダンは頭を掻きながら、「いや」とばつが悪そうにする。 「お前さんなら、大丈夫だと思ってた」 言いながらも、悔しそうな顔をする。 歩み寄ると、「違うな」と苦笑いした。 そうして、スタンを強く抱き締める。 「無事で良かった。そんで、良くやってくれた。良く、お嬢を助けてくれた。ありがとな」 スタンは困惑する。 「俺は何も出来なかった。ミリアムから連絡を貰って病院に駆け付けるのがやっとだった」 抱き締める腕が震えていた。 憤り。 恐らくは己への怒りであろうそれに、だが何故だと。 不可解な事の連続に、スタンは困惑を深めていた。
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