第3章ー死に花は咲かずともー

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スタンの中で幾度も疑問が浮かんでは消え、混迷が深まるばかりだ。 「互いにやるべき事をやった。何処にも落ち度はない」 言ってしかし、と視線を落とす。 「いや、落ち度があるとするならば、狙われていると分かっていながら危険性を考慮せず、休暇を選択した俺にある」 スタンの言葉に、ダダンは「バカヤロウ」と小さく返す。 「お前は俺達を信頼して休みを取ったんだ。その信頼を俺達が裏切って、そんで、結局お前に頼ってしまった」 ダダンは強く歯を食いしばる。 「大人のくせして、まだガキのお前に頼るしか出来なかった。すまねぇ」 ダダンは腕の力を強くして、「本当にすまねぇ」と慟哭めいた声を溢す。 「違う」とスタン。 ダダンの腕を掴むと、己から離す。 「適材適所という言葉がある」 スタンの脳裏に浮かぶのは、アイズの姿。 彼は戦闘を得意としておらず、けれどもスタンには長老に匹敵する強さを感じた。 その理由は明白で、彼の物怖じしない態度と気迫、戦いにおいてのスタンスと、そして減らず口だ。 王都に来るまでの道中で、彼は幾度も喧嘩の仲裁をしてみせた。 力で制圧するのではなく、対話で全てを解決へと導いた。 暴力のみが力の全てではないのだとスタンはアイズを見て学んだ。 その時は分からず思考の片隅に放置していたが、今なら少しだけ理解が及ぶ。 「俺は戦闘に長けているが、心というものはまだ良く分からない。俺では本当の意味でお嬢様を安心させてやれない」 己が到着し安堵させてもなお、サーシャの恐怖は消えなかった。 その恐怖を排除してもなお、サーシャの目は不安で満たされていた。 「俺では敵を排除する事は出来ても、安心を与える事は出来ない」 言うと、ダダンはキョトンとした目を向けていた。 「だから適材適所か?」 「あぁ、ここまでは俺の仕事だ。だから、ここからお嬢様の心を救うのはお前達の仕事だ」 沈黙が流れた。 数秒して、ダダンが吹き出した。 「お前さんはズレてるなぁ。相変わらず」 笑いながら言うので、「なに?」とスタンは首を傾げる。 「安心なら、お前さんが居るだけで与えられてるさ。俺達にも、お嬢にも」 「そうか?」 「そうだよ」 ダダンはスタンの頭を強く撫でる。 驚いて目をしばたたかせるスタンだが、嫌な気はしなかった。 「ったく、お前はすげぇよ」 「何の話だ?」 ダダンはニッと笑むと、「何でもねぇ」と手を下ろして背を向ける。 「、、、変わってくれるなよ。スタン。てまぇはそのままでいろ」 言葉を吐いて歩き出す。 その方向には、着替えを済ませたサーシャが向かってきているのが見えた。
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