第3章ー死に花は咲かずともー

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ゆっくりと歩いていたサーシャは、ダダンの存在を認識して一度立ち止まる。 そして次には駆け出した。 「ダダン!」 ガバッと抱き付くサーシャを、ダダンは慌てた様子で受け止める。 再燃していたのか、その恐怖を消すようにダダンの胸に顔を埋める。 ダダンはサーシャの頭を優しく撫でた。 「お嬢、怪我はしてねぇか?」 「大丈夫。擦りむいた所があるだけで、ほとんど無傷よ。カリオンが、守ってくれたから」 そう言うサーシャに、「そうか」と安堵の顔をダダンは見せる。 サーシャが顔を上げて「カリオンは?」と問えば、「無事だ」と答えた。 「今はベッドで眠ってる。こっちだ」 ダダンはサーシャを連れて歩き出す。 スタンはその背を見送りながら、少し疲れた様子で近場の椅子に腰掛けた。 ダダンとサーシャが振り向けば、「先に行け」と右手を挙げて促す。 見送ったあとに、スタンは天井を仰いだ。 「流石に疲れましたか?」 隣の椅子から声をかけられ、スタンはそちらを見もせずに「いや」と答える。 するといつの間にか隣に座っているミリアムは首を傾げた。 「疲れた訳ではない。ただ、今回の失敗を考えていた。原因は俺の思慮の浅さだが、改善方法が分からなくてな」 「失敗じゃないですし、改善なんてしなくて良いですよ」 「そうはいかない。同じ過ちを繰り返すのはただの愚行だ」 ミリアムはスタンを見つめる。 「殺したんですか?沢山、、、」 尻すぼみになる問い掛けに、スタンは「あぁ」と答えた。 当たり前に言うので、ミリアムは閉口する。 沈黙して、小さく「何も思わなかったんですか?」と次の問いを投げた。 「どういう意味だ?」 「殺す時、躊躇いとか、恐さとか、情とか、そういうのは考えないんですか?」 「考えた事もない。そんな物に行動を阻害されては、殺される側になるだけだ」 「、、、慣れてるんですね」 スタンは少し目を閉じる。 慣れ、なのだろうか。 「昔の話だ」 唐突に話し出すスタンに、ミリアムは続きを待った。 「俺の仕事仲間の男が惚れた女が居た。そいつは遊女で、数多の男を手玉に取れる程には人気の女だった」 「それで?」 「男の元に殺しの依頼が来た。商家の嫡男で、女とも懇意にしている奴だった。嫡男は女と本気で結婚するつもりだと知り、男は考えた。己より遥かに稼ぎが良く、人としても出来た相手。であるならば、身を引くべきではないだろうか。と」 「、、、身を引いたんですか?」 スタンは頷く。 「殺しの依頼は断り、男は二度と女に会わない事を決めた。それから暫くして、二人が結婚したと風の噂で聞いたそうだ」 「自分よりも相手の幸せを願う。素敵な話ですね」 思った通りの言葉だったのか、スタンはニヤッとする。 違和感を感じて、ミリアムは「違うんですか?」と問う。 「結婚の噂から一年を過ぎた頃だったか」 スタンは思い出すように再度天井を睨み、「女は死んだ。他殺だった」と語った。
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