第3章ー死に花は咲かずともー

15/19
前へ
/145ページ
次へ
ミリアムは動揺を見せる。 「誰に殺されたんですか?」 声を震わせ尋ねれば、スタンの空色の目がギロッとこちらを見やる。 「夫だ。元より問題行動のある人物だと後で知った。上手く世間には隠していたようだな」 「奥さんを殺すなんて、、、」 「信じられないか?世の中、殺人には雑多な理由で十分だ。倫理や道徳などというものは、強者が口にして初めて意味を得る」 スタンの顔は既にいつもの表情へと転じていた。 しかしその瞳は、真剣そのものだった。 「あの時殺しておけば。そう思わない為に、俺は躊躇わない」 「その相手が例えば、僕だったとしたら、躊躇いませんか?」 返され、スタンは口を閉じた。 しかして、「お前が敵になる未来を想像できない」と言う。 「例えば、ですよ」 スタンは腕組みをして眉を寄せる。 「本当にそういう未来があって、対峙するのが俺だとして、恐らく俺はお前を殺す」 「躊躇わずに?」 「あぁ。一度決めたらやり通すのが俺の流儀だ」 言葉に、ミリアムは「フフ」と笑った。 「スタンさんが言うなら、そうなんでしょうね」 「勘違いをしないでほしいが、俺はお前を殺したくはない」 「分かってますよ」 「いや、分かっていない」 スタンは身を乗り出し、ミリアムのフードを覗き込む形でミリアムに覆い被さる。 突然の事に萎縮し、ミリアムは俯いた。 「今回でお前には二つも"借り"が出来た」 「借りなんてそんな。って、二つ?」 「紹介者の件と、カリオンを助けてくれた件だ」 「別にそれは、貸しなんて思ってないですよ」 「お前がそうでも俺は違う。それに、借りは必ず返す物だと爺ちゃんから教わっている」 「いやいや、、、」 ミリアムは困った様子でフードを深く被り直した。 「俺にしてほしい事はないか?」 「、、、特にありません」 言いながら、声音に少しばかり戸惑いと逡巡が隠れて見えた。 「あるんだな?」 決定づけたそれに、ミリアムは動揺する。 「な、無いです!」 ミリアムはスタンを押し退けて立ち上がり、少し息を荒くする。 「何をそんなに拒むんだ?手が借りたいのなら言えば良いだろう?」 「たとえそうだとしても、あなたにしてほしい事ではありませんから」 返しにスタンは目を大きくした。 「そうなのか?」 視線を下げ、「それはすまない」と謝罪する。 ミリアムは呆れ混じりに溜め息を溢して、自分のローブを正す。 「それじゃあ、僕のお手伝いはここまでなので、帰ります」 「あ、あぁ、助かった」 僅かな沈黙。 視線を下げたままのスタンに、ミリアムは再度溜め息を吐いた。 「来週末、朝10時に『グリムソード』に来てください。少し手伝ってもらいたい依頼があります」 言葉にスタンは顔を上げ、「分かった。10時だな」と頷いた。 確認して背を向けると、ミリアムは駆け出して出ていった。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加