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ミリアムは動揺を見せる。
「誰に殺されたんですか?」
声を震わせ尋ねれば、スタンの空色の目がギロッとこちらを見やる。
「夫だ。元より問題行動のある人物だと後で知った。上手く世間には隠していたようだな」
「奥さんを殺すなんて、、、」
「信じられないか?世の中、殺人には雑多な理由で十分だ。倫理や道徳などというものは、強者が口にして初めて意味を得る」
スタンの顔は既にいつもの表情へと転じていた。
しかしその瞳は、真剣そのものだった。
「あの時殺しておけば。そう思わない為に、俺は躊躇わない」
「その相手が例えば、僕だったとしたら、躊躇いませんか?」
返され、スタンは口を閉じた。
しかして、「お前が敵になる未来を想像できない」と言う。
「例えば、ですよ」
スタンは腕組みをして眉を寄せる。
「本当にそういう未来があって、対峙するのが俺だとして、恐らく俺はお前を殺す」
「躊躇わずに?」
「あぁ。一度決めたらやり通すのが俺の流儀だ」
言葉に、ミリアムは「フフ」と笑った。
「スタンさんが言うなら、そうなんでしょうね」
「勘違いをしないでほしいが、俺はお前を殺したくはない」
「分かってますよ」
「いや、分かっていない」
スタンは身を乗り出し、ミリアムのフードを覗き込む形でミリアムに覆い被さる。
突然の事に萎縮し、ミリアムは俯いた。
「今回でお前には二つも"借り"が出来た」
「借りなんてそんな。って、二つ?」
「紹介者の件と、カリオンを助けてくれた件だ」
「別にそれは、貸しなんて思ってないですよ」
「お前がそうでも俺は違う。それに、借りは必ず返す物だと爺ちゃんから教わっている」
「いやいや、、、」
ミリアムは困った様子でフードを深く被り直した。
「俺にしてほしい事はないか?」
「、、、特にありません」
言いながら、声音に少しばかり戸惑いと逡巡が隠れて見えた。
「あるんだな?」
決定づけたそれに、ミリアムは動揺する。
「な、無いです!」
ミリアムはスタンを押し退けて立ち上がり、少し息を荒くする。
「何をそんなに拒むんだ?手が借りたいのなら言えば良いだろう?」
「たとえそうだとしても、あなたにしてほしい事ではありませんから」
返しにスタンは目を大きくした。
「そうなのか?」
視線を下げ、「それはすまない」と謝罪する。
ミリアムは呆れ混じりに溜め息を溢して、自分のローブを正す。
「それじゃあ、僕のお手伝いはここまでなので、帰ります」
「あ、あぁ、助かった」
僅かな沈黙。
視線を下げたままのスタンに、ミリアムは再度溜め息を吐いた。
「来週末、朝10時に『グリムソード』に来てください。少し手伝ってもらいたい依頼があります」
言葉にスタンは顔を上げ、「分かった。10時だな」と頷いた。
確認して背を向けると、ミリアムは駆け出して出ていった。
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