第3章ー死に花は咲かずともー

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月明かりが眩しく感じる程の夜だった。 青く照らす王城の外壁。 その側に人影が立つ。 紺色のローブを羽織った顔の見えない人影、ミリアムは静かに外壁へと歩み寄る。 慣れた手付きで壁に右手を触れ、小さく息を吐く。 「夜風に紛れた青い鳥。触れた果実は赤色で、遠き思い出忘れ難しと、今日も今日とて夜更けに迷う」 唱えれば、スッと右手が壁に呑み込まれる。 通り抜ければ、己には見慣れた一室があった。 無駄に広い空間、街を眼下に見下ろせる巨大な窓からは月明かりが差している。 高級な家具が壁に立ち並び、天窓付きのベッドには一人の少女が座っていた。 「お帰りなさい」 少女が言う。 「ただいま。"ミリアム"」 ミリアムは少女にそう言って、己の着ているローブを脱いだ。 ローブはバサッとはためき、小さな青い光へと変化して浮遊する。 それはベッドに腰掛けた少女へと飛行していき、その胸元に消えた。 二人は微笑み合う。 その顔は、判別が不可能な程"同じ"であった。 しかして、ベッドに腰掛けている方の少女が青く光れば、小さな青い鳥となって飛翔する。 そうして、立ち尽くす少女の肩に止まった。 「ねぇ、シャロ。いつまでこんな事続けるんだい?」 鳥が耳元で少女の名を呼んで尋ねる。 シャロと呼ばれた少女は、「フフ」と笑んで鳥へ目を向ける。 「出来るだけ、ずっと冒険者をやっていきたいの」 「どうして冒険者に拘るのさ?」 「面白いからに決まっているじゃない」 シャロはベッドへと歩み寄り、そこに腰掛ける。 鳥は合わせたように跳躍し羽をバタつかせると、シャロの膝へと着地した。 「ミリアムは、冒険者が嫌い?」 問い掛けに、ミリアムと呼ばれた鳥は「嫌いだね」と答える。 「金欲しさに魔物だけじゃなく、僕らみたいな温和な魔獣まで攻撃してくる輩だ。好きになる方がどうかしてる」 「皆が皆そうという訳ではないのだけれど、、、」 「往々にして冒険者って輩は野蛮人の成り果てさ。希に、本当ごく希にだけれど、君のような異端者が居るってだけさ」 「私には、あなたも魔獣の異端に見えてしまうけれど?」 「少ないってだけで、人間に忠誠を抱く魔獣は居るよ。僕がその証明さ」 ミリアムのそれにシャロは「フフ」とまた笑う。 そうして、視線を上げ窓の外を見た。 月明かりが照らす城下の街並みは、とても綺麗だ。 「今日、あの面白い冒険者がーー」 「またその話?スタンだっけ?最近そいつの話ばかりじゃないか」 「他に話せる相手も居ないのだし、聞いてくれないかしら?」 ミリアムは困った様子で嘴を鳴らし、「寝物語にでも聞いてあげるから」とベッドを嘴で示す。 「ほら、夜更かしはいけないよ」 そう言って、シャロをベッドへと促した。
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