第3章ー死に花は咲かずともー

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『生きている』という実感は、何処で感じとる物なのだろうか。 視界に広がる公園の砂場で、ピョンピョンと跳ね回る幼子(おさなご)の姿がある。 その幼女は楽しげにはしゃいでは、時折こちらへ視線をやって手を振ってきた。 その度々に己は小さく左手を上げ、すると幼女はまた楽しげに走り回る。 ベンチに腰掛けて見える懐かしげなその風景に、不思議と心が穏やかになるのを覚えた。 いつまでもここに居たいとさえ思う。 「なににやけてやがんだ?相棒」 声をかけられ目をやれば、ダダンが惚けた顔をこちらに向け立っている。 「いや」と己は上がっていた口角を戻し、視線を幼女に戻した。 「、、、平和だと思ってな」 言葉に「良いことじゃあねぇか」とダダン。 隣に腰掛け、ダダンも幼女を眺めた。 「マイロの旦那。今度は国王陛下から直々に爵位を与えられるらしいぜ」 「あぁ、聞いた。陛下直々となると、爵位もそれなりの物を与えられるのではないか?」 「だろうなぁ。くー、羨ましいぜ」 「冒険者でも、名声を得れば不可能ではないぞ?」 「馬鹿を言え。んなもんA級やS級の魔物何体討伐すりゃ良いんだよ。俺らの実力じゃ無理だ」 答えに思わず「フッ」と笑ってしまう。 「それもそうだな」 「でもよぉ。男ならいつか、でけぇ事やりてぇよな?」 ダダンのそれに、答えようとして詰まる。 確かにそう思っていた時代があった。 けれど、とまたこちらに手を振ってくる幼女に気付き、手を振り返す。 「俺は、今の生活に満足している」 ダダンは驚いた様子で「はぁ?」と己を見てくる。 「、、、変わったな。相棒」 「お前はどうなんだ?」 問われ、ダダンは頭を掻いた。 そうして同じように幼女へ目を向ければ、大きく手を振りながらダダンへ向けて少し怒った顔をしている。 ダダンは慌てて手を上げた。 すると、満足そうに笑む幼女。 「まぁ、嫌いじゃねぇな」 そう言って笑うダダンの顔が少しずつ霞んでいく。 昔は、戦いの中で生を実感していた。 そうする事でしか、生きるという意味を追いかけられなかった。 けれども、どうだ。 今、己は、あの頃より生きていると思えるのではないだろうか。 少なくとも嘗ての荒んだ心根は、あの幼女の微笑みにより薄らいでいるのを理解できる。 嫌いだったこの世界を、ほんの僅かではあるけれども、好きになれているのではないだろうか。 視界が白く歪んでいく。 いつまでも、ここに居たかった。 けれどもそうはいかないらしい。 声が聞こえる。 己の名を呼ぶ声だ。 戻らなければ。 彼女の元に、彼等の元に、名を呼ぶ声を追いかけて、ただひたすらに、白の中を突き進んで。
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