第3章ー死に花は咲かずともー

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「カリオン」 声に目を開ければ、真っ白な天井に幾つもの見知った顔があった。 一人は己の相棒、ダダン。 椅子に腰掛け、膝を組んで寝息をたてている。 次には壁に凭れて離れた場所に立っているスタン。 そのスタンと目が合い、スタンが視線でカリオンのベッド脇へ促す。 視線を辿って重みのある方へ顔を少し傾ければ、己の右手を強く掴んでベッドに突っ伏し眠るサーシャが居た。 「、、、お嬢」 安らかな寝姿に安堵の声を漏らせば、「んん」とサーシャは目を少し開けた。 はたとこちらを見て、「カリオン!」と飛び起きる。 寝入っていたダダンは声に驚いて体を跳ねさせ、椅子から転げ落ちてしまう。 ダダンは目をしばたたかせ、何事かと周囲を見渡した。 そうして、寝ているカリオンに抱き伏せているサーシャを見つけ、安堵の息を漏らした。 ダダンが立ち上がると、カリオンは困った顔でダダンを見つめる。 「俺はどれくらい眠っていた?」 「安心しろ。1日も経ってねぇよ」 サーシャはそれに顔を上げ、「私、怒っていますのよ?」とカリオンを睨んだ。 泣き腫らしたような目で睨むので、カリオンは眉を八の字にして目を逸らす。 記憶を呼び起こせば、最後はとても褒められた事ではない。 「すまない。でも、あの時はああするしかなかった」 絞り出すように言うので、サーシャは唇を噛んで顔を伏せた。 「知ってるわ。でも、凄く、すごーく不安だったんですの」 カリオンはまた「すまない」と言って、左手でサーシャの頭を撫でようとする。 そこで気付く。 左腕が無い。 はたと思い出せば、そうかと。 カリオンは右手をあげ、優しくサーシャの頭を撫でた。 「お嬢が無事で良かった」 「ズルいですわ」とサーシャ。 カリオンは視線を上げ、スタンへ向ける。 「お前が助けてくれたんだな。礼を言う」 「仕事だ。当然だろう」 返しにカリオンは「フッ」と笑った。 己の選択は間違っていなかった。 スタンなら、必ず救いだしてくれると信じた。 「お前、そういう時は当然だろうだけで良いんだよ。仕事なんて、野暮な事言うな」 ダダンが呆れて言うので、スタンは「そうなのか?」と少し驚いた。 それを聞いて、ダダンとカリオンは笑い声を漏らす。 笑った揺れからか、左肩に激痛がしてカリオンは顔をしかめた。 「痛む?」とサーシャが顔を青くする。 「少しな。でも大丈夫だ」 微笑むカリオンにだが、サーシャの表情は曇ったままだ。 スタンは重苦しい空気を察してか、「医者を呼んでくる」と部屋を出ていく。 一変した重い空気だけが、場を支配していた。
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