序章ーある1つの定義ー

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疑心暗鬼。 この男は何故自分を探していたのか。 「ほら、飯も食え。といっても、日持ちする栄養食ばかりだから味は保証できないがな」 スタンの疑念を知ってか知らずか、「ククク」と笑いながらアイズが言う。 スタンは黄色く細長い固形物を手に取り、口へと運んだ。 「、、、旨いな」 小さく言う。 「そうか?」 アイズはさも不味そうに同じものを頬張りながら首を傾げた。 「あの日から今日まで、食事や寝る場所はどうしてたんだ?」 「山で獣や山菜をとって飢えを凌いだ。寝る場所は日によって変える」 「この辺はかなり危険な魔物だって出るだろう?」 「危険は承知だ。決して侮らず、対処を心得ていれば死ぬ事はない」 淡々と答えるスタンに目を大きくして驚くアイズ。 「君、今何歳だ?」 問い掛けに「17だ」と至極当然に答える。 アイズは暫く黙り込み、黙々と携帯食料を口へ運ぶスタンを見つめる。 そうして一つ頷くと、「自己紹介がまだだったな」と笑みを見せた。 「私は『王国軍王都警備隊統括本部大佐』アイズ・S・シュタインズだ」 一息に言って、「君は?」と問う。 スタンはアイズを見つめて口を閉じる。 「名前くらいあるだろう?何と呼ばれていたんだ?」 重ねて問うアイズにスタンは眉を潜める。 「色々な呼ばれ方をしていた」 迷うように返すスタンに、アイズは何か得心した顔をして見せる。 「お爺さんからは、何と呼ばれていたんだ?」 「、、、爺ちゃんからは、スタンだ」 「スタンか。良し、ならばスタンと呼ばせてもらう。構わないか?」 「、、、勝手にしろ」 「私の事は好きに呼ぶと良い。呼び捨てでも構わん」 スタンはアイズのそれに黙って食事を再開する。 アイズは目を丸くしてだが、スタンを見つめフッと笑った。 「しかし本当に、子供だったんだな、、、」 ぼやくアイズに、スタンは視線だけ少し向ける。 「君に殺されそうになった時、その目を見ていてまさかなと思ったんだ」 聞き返された訳でもないのに、アイズは勝手に答える。 「君のような子供にも任務をさせていたのか。『烏合』は」 「何が言いたい?」 睨むスタンに、アイズは「気を悪くさせたなら謝る。すまない」と頭を下げる。 「ただ、子供が人殺しをするという異常が通常だったという事実が、『烏合』を壊滅足らしめた一因だったのでは、と思ったんだ」 スタンは睥睨の視線を変えず、「少なくとも、十代で任に当たっていたのは俺だけだ」と言った。
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