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アイズは「あくまで一因だ。要因は他に幾らでもある」と空になったスタンのカップに水筒から水を注いでいく。
「まぁ、王国も他所の事はあまり言えないしな」
小さく言うので、スタンは首を捻った。
「警備隊と言っていたな」
「ん?あぁ、王都警備隊の統括だ」
「何故警備隊の人間が指揮官を?」
「うちにも色々あってな。正直あんな仕事、誰もやりたがらない」
「なのにお前は引き受けた」
スタンのそれに、アイズは閉口した。
暫しの沈黙のあと、「理由か」と溢す。
「部下にも散々罵られたよ」
自嘲して笑むので、スタンは眉を寄せた。
アイズは次に笑みを消し、スタンを真っ直ぐに見返す。
「汚い仕事でも、誰かが矢面に立って動かなければ、酷い事態になりかねなかった」
「酷い事態?」
「大袈裟に言えば、三大国の滅亡だ」
「、、、有り得ない」
「無論極論さ。だが、『烏合』はやり過ぎたんだ。依頼だからと片っ端から各国の要人を殺した。王国もその点で酷い痛手を負った。国王陛下が殺されなかったのがせめてもの救いだな」
スタンは口を閉じて続きを待つ。
「ミミズク、コウモリ、カザリ、カラス。私達がその名を恐れる、『烏合』でも指折りの四人だ。こいつらは特に"ヤバかった"」
アイズは自身のカップの水を飲み干して、タンと地面に置く。
「確かに『烏合』は危険な存在だったさ。自分の死すらも布石に使って、確実に対象を仕留める。数にモノを言わせた特効型の爆弾みたいなものさ。だがそれはあくまで意識の話であって、人の領域を逸脱しない」
アイズのその表情が、苦虫を噛み潰したように苦悶へと変じていく。
「しかしその四人は違う。こちらがいくら警戒し警備を整えようと、必ず対象を殺害する。人数も配置も関係ないんだ。そいつらには」
「関係なくはないと思うぞ。そいつらも人間だ。仕留め方は幾らでもある」
当然と返すスタンに、アイズは少し驚いた様子だった。
そして、やはりそうかと得心する。
しかし表情には出さず、話を続ける事にした。
「ミミズクは一騎当千の剣士と聞いている。帝国での一夜千人斬りは有名な話だな。コウモリは毒殺で惨たらしい殺し方をする。王国貴族の連続殺人での逆さ吊り遺体からそう呼ばれるようになった。カザリは対象の周囲の人間を本人にも気付かせない内に操り、身内殺しをさせる事で有名だ。公国ではそのせいで内乱が起こりかけた」
「だが」とアイズは続ける。
「私が一番恐ろしく思うのは、"カラス"だ」
スタンは「何故だ?」と問う。
「"何も"逸話が存在しないからだ」
アイズの目は真剣そのものだった。
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