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「他の三人には幾つも逸話が残されている。それこそ一人の人間が出来る範疇を大幅に逸脱しているものがほとんどだが、カラスだけはそれが一つもない」
「別段特筆すべき事がないだけじゃないか?」
「逆だ。スタン」
返しにスタンは眉を潜める。
「カラスは完璧な暗殺を演じる事で意図的に情報を制限し、自身の人物像を隠蔽しているんだ」
スタンは黙って水を飲み干し、溜め息を溢した。
「カラスに殺された人間は、侵入はおろか殺害される瞬間まで自分が殺されようとしている事に気付いていない」
「暗殺なんだ。気付かれるのは技術が拙い事の証明だ」
「普通有り得るか?珈琲を一服としていた者が、その珈琲がまだ入ったカップを手にしたまま殺されたり、食事をしていた二人組がまるでまだ食事途中であるように死んでいたり、お偉方の会談の場で警護に当たっていた三人を含めた五人が何者にも気付かず、抵抗した形跡も無く、その密室で殺されていたり。カラスという存在が確認されるまで、複数の犯行だと思われていたほどだ」
「それで?そのカラスは何故認識されたんだ?」
「認識というより、畏怖した皆が勝手にそいつの存在を作り上げた」
「意味がわからん」
スタンは呆れる。
しかし、アイズは笑う。
「王国最強の剣士が居た。【剣帝】と呼ばれたその人は既に引退していたが、齢70にしてまだ高みを目指そうとしていた」
スタンは続きを待つ。
「実際強かった。盲目の御仁だったが、だからこそ気配というものに鋭敏で、誰もその老人に一太刀すらいれられなかった」
アイズの目が寂しげに色を変える。
「気付かないはずないんだ。あの人が、生物の発する魔力や気の流れに、気付かないはずが。なのに、より感覚を研ぎ澄ませようと座禅をしていた所で、殺されていた」
「、、、そうか」
「私達が見てきた『烏合』の構成員であれば、そんな事は不可能だ。先の三人でも彼となら戦闘へと発展していただろう」
「、、、そうか」
「だから、有り得ないから、存在を作った。私達の知らないもう一人の"何か"が『烏合』には居る。過去の不可解な暗殺もそいつの仕業に違いないと。何処にでも紛れ、何処にでも居る。そういう意味も含め君らの組織名にも準えて、そいつをカラスと呼んだ」
アイズの視線がまた真剣なモノへと戻り、真っ直ぐにスタンを貫いてきた。
「君なんだろう?スタン」
言葉には、確信が込められていた。
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