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スタンは沈黙を続けたが、「だとして」と言葉を紡ぐ。
「そいつが俺だったとして、どうする気だ?復讐でもするか?」
つまらないように返すが、「馬鹿を言うな」とアイズは笑った。
「そのつもりなら一人では来ないさ。それに、"ずっと"私に気付いていただろう?私に少しでも敵意があれば君は私を殺すか逃げていたのではないか?」
スタンは閉口する。
事実そうだと思えたからだ。
不可思議な事に、アイズからは一部も敵意を感じない。
無論警戒はしているが、無下にする程嫌味も感じないのだ。
だからこそ困惑する。
では何故、アイズは自分を探していたのだろうかと。
理由が見当たらない。
アイズはスタンの表情の僅かな変化から思考を読み取ったのか、「物見遊山のような邪推のつもりだった」と言う。
「それで有給を全て消化するなど、自分でもどうかしてると思う。けれどどうしても、話をしてみたかった」
「それだけか?」
問いにアイズは頷く。
「『烏合』の民には幾度か会った事があるが、君は毛色が全く違って見えてな。君が子供というのも一因としてあったのかもしれない。兎に角、上層部が恐れる『烏合』の民で、大軍の中を誰にも気取られず私の首に刃を届かせた少年に会って、話を聞いてみたかったんだ」
アイズは「まぁ、それも話してみて気が変わった」と微笑む。
「気が変わった?」
「あぁ。因みに聞くが、今後は何をするつもりなんだ?行く宛はあるのか?」
「特に決めていない。長老からは「生きろ」としか言われていないしな」
アイズは「そうか、そうか」と嬉しそうに頷く。
「それじゃあ、私の所に来ないか?」
スタンは視線を上げ、細めていぶかしむ。
「悪いが、依頼なら今は受けていない。戦力が欲しいなら他を当たってくれ」
「依頼じゃない。提案だ。悪いようにはしないさ」
「提案」と言いながら強引なアイズに、スタンは溜め息を漏らす。
「そんなに殺して欲しい奴がいるのか?いずれは引き受けてやっても構わないが、今は勘弁しろ。そんな気分じゃない」
スタンは言って、少し左を見る。
そこには瓦礫の山があり、未だ過去の幻影を己に誇示してくる。
「おいおい、こんなに明るく殺しを依頼するほど、私は性根が腐ってはいないぞ?」
「では何故だ?俺に何をさせたい?」
今度はアイズが眉を寄せ、大きく首を捻った。
「それを決めるのは私じゃない。君自身だろう?」
「なに?」
「私は君を引き取りたいと言っているだけだ。君に何かをさせたい訳ではない」
スタンは言葉の意味を理解できず、思考を止めてアイズを見つめていた。
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