序章ーある1つの定義ー

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スタンはゆっくりと口を開き、「お前に何の得がある?」と問う。 「本来なら見つけ次第抹殺しなきゃならない対象を保護するんだ。得なんてある訳ないじゃないか」 「はぁ?本当に意味がわからんぞ」 「気に入ると放っておけない性分でな」 スタンは頭を抱える。 今、何を為すべきかも混迷している状態で、アイズの申し出を受ける訳にはいかない。 「ーー教えてくれ」 ふと、長老から言われた言葉を思い出す。 『家族』や『仲間』。 その意味を知る事を「最後の命令だ」と言っていた。 現状、その取っ掛かりさえ見いだせていない。 「無理だ。お前の提案は受けられない」 答えに残念そうにアイズは肩を落とす。 「そうか、、、分かった」 「だが、お前は信用出来る奴なのだと思う。お前のような人間を、俺は知らない」 言ってスタンは、「俺からも質問をしても良いか?」と続けた。 「何だ?何でも聞け」 「お前には、家族がいるのか?」 「居るさ。好きな人間も居れば、嫌いな人間も居る。家族だからその辺が面倒ではあるな」 聞いてもいないのに続け、アイズはカラカラと笑う。 しかし、スタンは目を大きくして詰め寄った。 「そんなに沢山居るのかッ!?」 剣幕に気圧され、アイズは「あ、あぁ」と頷く。 「教えてくれ!家族とは何だ!?仲間、、、そうだ仲間は居るのか!?仲間とは何だ!?」 「お、落ち着け。急にどうした?」 両肩を押さえられ、スタンはハッとした。 「すまん」 取り乱した己に驚きつつ、スタンは下がって座り直した。 沈黙が流れる。 スタンは左へ視線をやり、瓦礫の山を見渡す。 「、、、苦しいんだ。胸が」 アイズは返答を考えていたが、スタンが口を開いたので言葉を探すのを止めた。 「里の人間も、爺ちゃんも、俺にとっては仕事を介した関係だった。そいつらが居なくなっても、どうでも良い。爺ちゃんからずっとそう教わってきた。任務を共にする者の死に一々干渉した所で、遂行は果たせない。俺達の死よりも任務の失敗の方があってはならないからだ」 アイズは黙って瓦礫を見つめるスタンを見る。 その空色の瞳は、瓦礫でない何かを見ているようだった。 アイズにはそれが何か直ぐに理解できた。 過去の幻影、思い出だ。 「お前ら騎士達がここを去るのを待って、爺ちゃんの亡骸があれば埋葬くらいはしてやるつもりだった。自分の荷物も残っているかもしれないしな」 瞳が僅か、潤んでいく。 「だが戻ってきて、この有り様を目にして、何故か、胸が痛くて仕方がないんだ。怪我などしていない。古傷がある訳でもない。だのに、どうしてこうも苦しい?」 空色の瞳から涙が溢れ、ツウと頬を伝っていく。 スタンはそれに気が付いていないようだった。
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