5人が本棚に入れています
本棚に追加
閑散とした一室だった。
だだっ広いだけの一室。
床は古ぼけた板張りで、窓はなく、等間隔に置かれた燭台の蝋燭だけが室内を淡く照らしていた。
部屋の中央には座布団が敷かれ、老い耄れた老人が胡座をかいて座っている。
老人の前には四人の人間が片膝を立てて座っていた。
その五人とも、身形は全てが黒であった。
両目以外の全てを黒い衣服で隠し、蝋燭の明かりですら黒の輪郭を映し出すのが容易ではない様子である。
人間達はただ無言で、静寂の中に老人の言葉を待っていた。
「呼び出してすまんな。お主ら」
老人は労うように言う。
黙っていた老人の言葉が漸く始まった事で、四人は僅か、安堵した雰囲気を醸し出す。
「さてーー」
老人が繋げて言葉を吐いた時、部屋の外、遥か遠方だろう何処かから爆発音が鳴り響いた。
「ーー始まったか」
少し視線を上げ、爆発の方向だろうそちらへ向きながら言う。
そうして、「まぁ良い」と視線を戻した。
「呼び出したのは他でもない。里の今後について話そうと思ってな」
怒号と爆発の音を繰り返す外を無視して、四人も知るはずの里の現状を無視して「今後」とは、如何なるものか。
四人の内の一人が、「プハッ」と笑い声を漏らす。
「爺さん。里はもう終わりだ。全滅。それ以外に道は無い」
あっけらかんとして言うのは、一番右に座る大柄な黒の男だった。
「S3。口を慎め」
その左に座る座高の高い細身の男に窘められ、S3と呼ばれた男は大仰に両手を上げる。
「良い。S3の言う通りじゃ。S1」
残念そうに言う老人に、S1と呼ばれた男は俯く。
また沈黙が場を支配していた。
外からの喧騒だけが響く中、「我々は少しばかり、やり過ぎたのやもしれん」と老人がぼやく。
「そんなことはありません」
言ったのは、S1の更に左の男だった。
「僕達四人が居れば、あの数も敵にはなりませんよ」
言葉にだが、一番左の女が「馬鹿言わないで、S2」とため息を漏らす。
「小隊ならいざ知らず、相手は軍よ?私達が運良く生き残れたとしても、里の壊滅は防げないわ」
女の言葉に、S2と呼ばれた男は睨みを返す。
すると、「少なくとも」とS3がまた口を開く。
「俺は御免だね。メアリーを連れてとんずらする予定だ」
言って、「悪く思うなよ?爺さん」と老人へ目を向ける。
「何も悪く無かろう」と老人。
「我々は影を生きる傭兵。来る者は拒むが、去る者は追わん」
言葉にしかし、四人は心底驚いた目を向けていた。
最初のコメントを投稿しよう!