序章ーある1つの定義ー

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「里抜けは大罪じゃなかったのか?」 S3が言うと、老人はカラカラと笑う。 「里は既に虫の息。逃亡を阻止する力もあるはずなかろう」 「じゃあ、妙な言い方するんじゃねぇよ」 「すまん。昔を思い出して、ついな」 老人はまたもカラカラと笑う。 そんな老人を「長老」とS1が呼ぶ。 「何じゃ?」 「それで、里の今後とは何なのでしょうか?」 「ふむ」と老人は顎に右手を添え、しばし沈黙。 重々しくだが、「本日を以て、『烏合』は解散とする」と言った。 「どういう、意味ですか?」 狼狽えながら問い返すのは、S2であった。 「言葉そのままの意味じゃ。解散とは言ったが、壊滅とも言い換えられるのう」 能天気に声を漏らして笑う老人に、四人は互いの顔を見合わせる。 そんな四人に「じゃが」と老人は続ける。 「お主ら四人なら包囲網を掻い潜って脱出する事も容易じゃろうて」 「、、、本気か?」 S3は腕組みをして老人へ細目を向ける。 「言葉は撤回できねぇぞ?俺は予定通り、メアリーを連れて逃げる」 「構わん。撤回もせん」 言いながら老人は、S3への視線を優しい物へと変じた。 「あの幼子を拾ってから、本当の父親らしくなってきたのう。ギルバート」 ギルバートと呼ばれて、S3は舌打ちをする。 「散々識別番号で呼んでおいて、最後だけ名前を呼ぶんじゃねぇよ」 悪態を吐きながらも、「つうか、ちゃんと覚えてんじゃねぇ」と少しだけ口角を緩めた。 気恥ずかしさを打ち消すように、ギルバートは立ち上がる。 「そうと決まれば、俺はお先に消えさせてもらう」 「分かった。気を付けるんじゃぞ」 「誰に言ってんだ?クソジジイ」 言葉にS1がギルバートを睨む。 しかし、何も言わなかった。 見越してか、ギルバートは真面目な顔をして老人を見下ろす。 「世話になった。感謝はしてる」 老人はそれに大きく頷いて返す。 「あぁ、達者でな。ギルバート」 老人のそれを聞き追えたと瞬時にギルバートは消えた。 音も残さず、まるで初めから居なかったかのようだった。 それを見届けると、女はチラッとS1を見やる。 どうやら何も言わない。 止めもしなかった。 ならば、チャンスだ。 「それじゃあ、私も行こうかしらね」 立ち上がると、老人ではなくS1を見下ろす。 少しだけ視線を向けてくるS1だが、何も言わずにまた前へと戻した。 しめたと女は笑む。 「ここに居てもお金にはならないし。今後は好きに生きさせてもらうわね」 老人は頷き、女を見上げる。 その目は知らない。 いつもは鬼のように冷淡だったそれが、優しい色をしていたからだ。
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