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老人は微笑む。
「S4。いや、アリスよ。お主が金銭しか信用せんのは分かっておるが、あまり信用し過ぎるなよ?金は裏切らぬが、それを使う人間は容易く裏切る」
「はぁ?」とアリスと呼ばれた女は睨みで返す。
「だからお金だけを信用してるんでしょ?第一、そう育てておいて、今更説教なんてしないでくれる?」
老人は「ホッホッホ」と笑った。
「すまんすまん」
悪びれる様子もなく言うと、「まぁ、世界を知れば自ずと分かるじゃろうて」と一人で勝手に頷いている。
アリスは呆れて息を吐き、S2を見下ろした。
「じゃあ私は行くけど、あんたはどうすんの?」
S2はアリスを見上げるが、次にS1へと視線をやった。
答えを返さないS2に更に呆れて、アリスは背を向ける。
「S1に固執するのも良いけど、あんたじゃ"それ"は無理よ。何より、死んだら何の意味も無いじゃない。無意味よ、無意味」
言いながら少し膝を落とすと、「一銭にもならない事に命を賭けて、何が楽しいんだか」とぼやくように溢して、消えた。
S2はアリスの消えたそこへ視線を送る。
「レイン」
呼ばれて、S2は視線を老人へと戻した。
「お主はどうする?」
問われ、レインは言葉を失う。
顔を老人からS1へ向け、震える唇を開こうとした。
「ーー行け。S2」
こちらを見もせずに、S1が言う。
レインは開こうとした唇を引き締め、「何だよ。それ」と憤慨した。
「君はいつもそうだ。親友である僕の事には興味も示さず、仲間にも素知らぬ顔をして、勝手に一人で背負い込んでーー」
その瞬間のレインは、気味の悪さを醸し出していた。
怒りの声音を吐き出しながら、怒気を孕んだ表情を露にしてしかし、その目は恍惚の色を帯びていく。
「ーー全部一人でどうにかしてしまう」
己でも気付かぬ内にか、声音も表情も、S1へ向ける全てのそれが、怒りから陶酔へと変じていた。
老人はその様相を眺めながら、呆れたように視線を逸らした。
狂気じみた感情が隠せていない事実に気が付き、はたとレインは真面目な顔付きを取り戻す。
そうして立ち上がると、「まったく」とため息。
「僕も行くよ。流石に死にたくは無いからね」
老人ではなくS1に言うレインに、「そうか」とS1は返す。
「生きてたら、また会おう」
言いながら、確信に満ちた物を瞳に映してレインが言う。
S1が頷いたのを確認して、レインは影に溶けるように黒く染まり消えていった。
「あやつのお主に対する執着心は何なのじゃ?」
老人は頭を抱える。
「さぁ」とS1は首を傾げた。
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